2022年06月23日 公開
2022年5月末日、一風変わったプレスリリースがエンタメ業界、そして投資家たちのあいだを駆けめぐった。
「メタバースを活動拠点とする新しいアイドルグループの創造を目的としたIEOの準備開始」
メタバースが世界をどう変えるのかは、昨今もっとも議論されるテーマの1つだが、はたしてメタバースは、コロナ禍に喘ぐアイドル業界にも変革をもたらすというのだろうか?――仕掛け人である2人に、会社設立の背景とそのねらいを訊いた。
株式会社オーバースは2022年3月9日に誕生しました。代表を務めている私(佐藤)は、松井証券在籍時に日本初の本格的なインターネット取引の導入にかかわり、その後、楽天証券、SBI証券、岡三オンライン証券、マネーパートナーズを経て、2021年4月からはHuobi Japan(フォビジャパン)の取締役として暗号資産交換業に携わってきました。
と、いかにもお堅い道を歩んできたわけですが、じつは、私はいわゆる「ドルヲタ」で、メジャー・地下にかかわらずアイドルの追っかけを長年続けていまして、若い時分はライブを観るために台湾にまで行ってしまうほどでした。
先の見えないコロナ禍でエンタメ業界が苦しむ姿を目の当たりにし、心ひそかに心配していました。アイドル業界がいま抱えている課題を私たちなりに整理すると、以下の4つが挙げられます。
(1)コロナ禍でリアルライブは中止に追い込まれ、握手会などの接触イベントもNG、従来のアイドル活動が制約を受けている。
(2)とはいえ業界の仕組みを超えて活動の幅を広げることは躊躇せざるをえない。
(3)人格形成上もっとも重要な時期をアイドル活動に捧げた結果、一般社会との接点がつくりにくく、卒業後の進路が見えない。
(4)少子高齢化が進む日本での活動だけではもはや限界があり、世界をフィールドとすることが必須となりつつある。
私の経歴やスキルが、こうした課題の解決において何かしらお役に立てないだろうか。
同じ想いを共有する澤さん(副社長)と議論を重ね、金融インフラとも大いに縁の深い「メタバース」(仮想空間)と、日本が誇る文化である「アイドル」との融合をミッションに掲げ、みずからメタバースを活動拠点とする新しいアイドルグループを創造するプロジェクトの推進に向けて立ち上げたのが、株式会社オーバースなのです。
エンタメ業界は、コロナ禍によって影響を受けた最大の被害者の1つでしょう。とくにアイドル業界は、ライブはもとより、握手会に象徴されるファンとの直接的なふれあいを大切にしてきました。
運営側の苦悩は言わずもがな、従来の活動が制限されたアイドルたち本人への負のインパクトも相当なものだったと聞きます。
一方で、こうした状況下においても、BTSを筆頭とする韓国のアイドルグループや、あるいは日本でも「Vチューバー」(バーチャルYouTuber)や「2.5次元アイドル」など、最新のデジタル技術を存分に活用して展開を広げる動きは加速しています。
ところが、実在する日本の「3次元アイドル」たちは、もちろんファンとの接点を増やすために新たなITツールを採り入れる努力をしていますが、伝統的なメディアを通じた活動の本質に根本的な変革が起きているわけではありません。
それほど日本のアイドル文化は、根強いファンに支えられた独特な世界を築いてきたともいえるわけですが、コロナによって、その脆弱性も露わになりました。
たとえば、トレーディングカードを最近はやりのNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)化しようとする動きが見受けられますが、NFTがもつブロックチェーン技術の利点を存分に使っているというよりは、たんに既存のカードをデジタル化するにとどまっている印象を受けるのです。
もともとあるトレーディングカードをたんにデジタル化するだけですから、そこに新たな工夫が凝らされているとは言いがたい。
NFTの本来の強みは、所有権が記録される性質を活かしてシリアルナンバーを付し、「この世で1つしかないグッズ」を生み出せる希少性と、所有権の移転状況から「ファンの声を反映したグッズ」をつくるためのマーケティングに活かせることにあります。
逆に言えば、ファンにとっても、自分たちの声や意見を運営側に届けることが容易になるかもしれません。NFTやメタバースは、ファンの「推し活動」「推し活」のあり方も抜本的にアップデートする可能性を秘めているといえます。
更新:11月21日 00:05