館の存続すら危うかった頃は、漠然と「紡いできたものを残す」ことしか考えられませんでした。
しかし、運営が再び軌道に乗り、館の雰囲気も穏やかになると「残す」とは、何をどのようにすることか、と考えられるようになります。
私が思うに、それは「次世代に様々な価値観や豊かさを受け継いでいく」ことです。原動力の解像度が上がった、と言ってもいいですね。
それは、要は文化施設としての「公」の役割を果たすこと、とも言いかえられます。最近は「教育」にリソースを割くことを心がけるようになりました。
自分たちの身の回りにいる動物や魚たちがどんな姿で、どう生きているのか知っておくことは、周囲への想像力や感性を育む意味でも、とても価値のあることです。
子供たちの好奇心を育み、豊かな人生を送る素地を身につけてもらう。ただ漠然と夢や成長を追いかけさせるのではなく、目の前の生活を楽しめる力を身につけてほしいんです。今の私の原動力は、そこにあると思います。
奇抜さの陰に隠れがちですが、実は地元の保育園と協力した園内水族館の取り組みなども、すでに行なっているんですよ。
今後の目標を聞かれたら「桂浜で100周年を迎えること」と答えています。すると大抵、ではその先は、と聞かれますが、実のところ、その先にもその前にも、ビジョンはあまりないのです。明日のことは、明日にならないとわかりません。
よく、ブレてはいけないと言われます。ですが、本当にブレてはいけないのは、仕事の目的や意識、生き方といった「芯」の部分だけ。
それを通貫するには、むしろ日々良いほうへ良いほうへ、状況次第で積極的にブレていく必要があると思います。そんな考え方なので、この先どんなことをするか、細かくは決めていないのです。
ここ数年、SNSを通じてこれまで少なかった10代から20代の若いファンの方が急増しました。支えてくれるファン層の幅広さは、ハマスイの大きな強みになっています。
ただ見せたいものを見せるのではなく、見たいと思ってもらえるものを見せる。博物館としてあるべき姿を保つ。お客さんの笑顔も、職員の笑顔も保っていく。
そんな「芯」をブレさせないために、日々人々の声を受け止めながら、手段の面では変わり続けるつもりです。
それができて初めて、人と人をつなぐ「応援してもらえる水族館」として、ファンのすそ野を広げ、館を守り続けることができるのだと思っています。
【秋澤志名(あきざわ・しな)】1972年、高知市生まれ。2004年、親族が長年経営してきた桂浜水族館で嘱託社員に。14年には副館長として正式に社員となり、以後「マイナスをプラスに! なんか変わるで桂浜水族館!!」をテーマに改革に取り組む。公式キャラクター「おとどちゃん」誕生の発起人。館のいきもの=動物&飼育員と捉え、「イケメン飼育員」などのバズワードも生み出した。SNSでの発信などを通じてメディアの注目を浴び、水族館としては異例の写真集やファンブックも発表。昨年には「おとどちゃん」著のエッセイ『桂浜水族館ダイアリー』(光文社)も出版された。
(『THE21』2022年5月号特集「私の原動力」より)
更新:01月15日 00:05