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その株価は適正なのか? 売上と利益だけでは見落とす「企業価値」という視点

2022年03月25日 公開

近藤哲朗(「図解総研」代表理事),村上茂久(ファインディールズ代表取締役)

 

ファクトで「直感とのズレ」について考えよう

――漠然と、会計やファイナンスを学ばなければと考えるビジネスパーソンは多いと思いますが、数字が読めるようになったことによって、何かメリットはありましたか?

【村上】先ほどの説明と重なるかもしれませんが、仮説検証ができる点です。『ファクトフルネス』(日経BP社)という本が指摘する通り、事実として世の中を読み解くと、感覚とのズレを確認できます。

最近の例でいえば新型コロナです。日経平均が2020年1月には24,000円前後だったものが、新型コロナの影響で同年3月には一時16,000円台まで下がりました。私は、日経平均は今後さらに下がると当時予想しました。

でも実際には、下がるどころかその後、3万円台まで上昇しました。現実の出来事が直感とズレることはよくあります。その時に、数字が読めれば自分の思い込みを修正できます。

【近藤】自分の世界が正されるバイアスを取り除いてくれる近道になりますよね。私も、マルイの決算書を読んだ時にそれを感じました。

マルイは、昔から小売りと金融をハイブリットでやっている、小売りの中でも異色の企業です。創業当時から、月賦販売をしていたり、小売の中に金融的側面が混在していたんですね。

実際に決算書を読むと、その特殊性がよく表れています。BSが大きくて、営業債権も大きい。その中にはエポスカードの支払などから収益を得るなど、金融的側面が見えてきます。

一般的に、小売りは店舗をイメージすると思うので、百貨店のようにいわゆる有形固定資産が大きいはずなのですが、割合として少なく、典型的な小売企業の決算書だと思い込んで読むと予想が裏切られるので、実態と直感のズレがあります。そこから深掘りした分析ができますね。

【村上】今回の「決算書ナゾトキトレーニング」の原稿を書く時も、ストーリーラインを最初に書いたんですけど、分析をする中で、想定と違った数字が出てきたりして焦りました(笑)。でもそれは、仮説が間違っていたと言う新たな発見であり、さらに深掘りして考えるきっかけになるので、前向きに捉えています。

【近藤】そうやって考えを深められるのが数字を読めるのは良いことですよね

※1エーザイ㈱CFO柳良平非財務の価値を明確にし、ESG経営を実践することで、エーザイの企業価値を向上させた中心人物。

※2伊藤邦雄氏を座長とした、経済産業省の報告書。2014年8月に公表された。企業が投資家との対話を通じて持続的成長に向けた資金を獲得し、企業価値を高めていくための課題を分析。ROEの目標水準を8%と掲げ、実務界から大きな反響があった。

※3責任投資原則(PRI)2006年当時、国際連合事務総長だったコフィー・アナンが、「金融業界は機関投資家の意思決定プロセスにESG課題を反映させるべき」と提唱したガイドライン。

 

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