2022年02月07日 公開
――創業の経緯は?
【江見】先ほど触れたように、私は米国で寿司職人をしていたのですが、帰国して、ショットバーで現副社長の松島(和之)と出会いました。
松島は婦人服の会社を経営していて、「最近、変な夢ばっかり見る」と言うんです。どんな夢か聞くと、在庫の段ボールが降ってくる夢だと。それで、「それはよくないから、2人で何かやりましょう」と言って、1992年に「サブマリン」というサンドイッチ店を岐阜で起業しました。
そして、ご多分に漏れず、借金が重なりました。当時はまだ金利が高くて、計算してみると、借金の返済に10万年かかる。親の家も担保に入っているし、私は高卒で渡米したので学歴もないし、「これは普通に努力をしても無理だ。絶体絶命だ」と思いました。
当時、私は、男は強くなければならないと思っていましたし、若かったこともあって、よく怒っていました。でも、怒ると自分も嫌な気持ちになるし、空気も悪くなって、生産性が落ちます。そんな失敗を繰り返していました。
そこで思ったのが、怒るのをやめようということです。怒らなければ人間関係が良くなり、自分のストレスも溜まらず、アイデアも浮かびやすくなる。だから、怒らなければ怒らないほど数字が出る。
人間というのは、結局、人間関係で決まります。人間関係が良好で、協力的であれば、絶対にいい方向に向かって、いい結果が出る。それに、仲良く楽しくできれば、もうその時点で幸せじゃないですか。
この人間関係を良好にする「怒らない経営」が、当社の最大の参入障壁です。これは一種のフィロソフィーで、フィロソフィーが正しくなければ、いくらテクニックを云々しても、結果が出ません。
フィロソフィーと言いましたが、これは思想ではなくて、合理的な事実です。現に当社は成長を続けています。思想は人それぞれでいいのですが、これは事実ですから、認めるしかありません。きれいごとで言っているわけでもありませんし、根性論でもありません。
人間はそれぞれ個性があるし、性格も考え方も違います。でも、笑っているか怒っているかしかないんです。その怒っているところをなくせば、笑っていられます。そうすれば幸せだし、数字も出る。
喜怒哀楽はあって当たり前、と思われるかもしれませんが、なぜ当たり前なんでしょうか? 犬でも怒るときは理由がありますよね。
では、なぜ人間は怒るのかと言えば、不安や不満があるからです。例えば、売上目標が100万円の店舗が50万円しか売れなかったので店長を怒る。でも、100万円売る方法がわかっていれば、怒らずに、その方法を取ればいいわけです。その方法がわからないから、不安や不満になって、怒るわけです。
要するに、怒るというのは、「自分はバカだ」と言っているようなものなんです。50万円の売上を100万円にするのが仕事であって、怒ることが仕事ではありません。「売上は50万円だったけど、あなたがいてくれるおかげで仕事ができている」という感謝を持って、100万円の売上を作る解決策を考えるべきです。
「銀のさら」で最高に売上げた店舗は、1日に2000万円でした。これは、とても私にはできません。私が自分で店長をやっていたときは170万円で気絶しました。上場も副社長の渡邊(一正)がやってくれたことで、私にはできませんでした。社長である私がすべきことは、理念を決めて、方向性を示すこと。あとは、それぞれ得意な人たちが自発的に動いてくれています。
――話を戻しますが、サンドイッチ店から宅配寿司に事業転換した理由は?
【江見】サンドイッチ店をしながら、助六寿司とかを売りに来ている軽自動車を横目で見ていて、寿司のほうが市場が大きいんだろうなと思っていました。米国から帰国して間もない頃だったので、寿司も作れるけど、サンドイッチでやると決めたんだから頑張らないと、と思っていたのですが、当時の恋人から、今の妻ですけど、「やっちゃいなよ」と言われました。
とはいえ、人脈も知識もないし、寿司が作れるとはいっても米国とはネタも違うし、どうしていいかわからない。そこで、たまたま「サブマリン」2号店の前にフランチャイズ展開をしている寿司店があったので、話を聞きにいこうと思いました。
けれども、考えてみれば、ずいぶん虫のいい話です。教えてくれるわけがない。裏の畑に停めた車の中で1時間ほど考えて、そのまま帰ってきてしまいました。
それからも2~3回、話を聞こうとしてはやめて帰ってを繰り返すうちに、その店の前にトラックが停まり、店の中のものを搬出しているのを見かけました。「引っ越すんですか? 実は話を聞きたいと思っていたのですが、なかなかできずにいたんです」と声をかけると、「よかったら、これ使いますか」と、なんと寿司店に必要な設備を全部くれました。
さらに、店舗の運営方法も教えてくれました。お金がなかったので、お礼は喫茶店でご馳走をするだけだったのですが、その後も交流が続き、いい関係性になりました。
――当初はどんな状況だったのでしょうか?
【江見】1日3万~5万円売るのがやっとでした。最高で170万円までいきましたが、そのときは、先ほどもお話ししたように、気絶してしまいました。
そもそも、理論上、成立しなかったんです。
スケールメリットがないので、仕入が高くなってしまい、食材原価率が55%くらいの時もありました。インターネットが普及していませんでしたから、チラシを配って、電話で注文を受け付けるのですが、そのチラシの原価が1枚10円くらい。配布するための人件費が1枚2.5~3円かかるので、5万枚配ったら、それだけで60万円以上です。
月商400万~500万円を上げても、これではとても利益が出ません。構造的な問題がありました。
そこで、スケールメリットを得るために、支援会社と業務提携をして、1年3カ月で約200店舗にまで増やしました。その支援会社は、各領域でナンバーワンのフランチャイズを育てて、最短で上場に持っていくという事業をしていた会社です。これによって、利益が出る構造に変えることができました。
返済に10万年かかる計算だった借金も、フランチャイズの契約金が入ってきたので、2日で返せました。
今は、当時のようにフランチャイズに数千万円も投資するという空気ではありませんから、今からこれをやるのは難しいと思います。
その支援会社からは、「銀のさら」という名前がいいので業務提携をしたと言われました。もとは別の名前にしようと思っていたのですが、すでに商標を取られていて、次に考えた名前も商標が取れず、最終的につけた名前なのですが、運がよかったですね。
偶然や巡り合わせというのは、良いことと悪いことの両方がありますが、その受け止め方で万事が決まります。私は「テクニカルスキル」に対して「ヒューマンスキル」と呼んでいるのですが、どういう価値観を持っているかが結果を変えます。
――最後に、これからの展望についてお教えください。
【江見】先に申し上げたように、寿司市場は非常に大きい。また、外食産業の市場規模が25兆円くらいなのに対して、フードデリバリー市場は約6000億円くらいですから、わずか2%ほどです。宅配寿司の伸びしろはまだまだ大きいのです。
これから先、自動運転の技術が進むと、デリバリーのコストはかなり下がると言われています。すると、お店で食べるよりもデリバリーのほうが安くなります。お店での値段には家賃やサービスのコストが含まれますから。そうなると、外食よりもデリバリーのほうが多くなるかもしれません。
これを見据えて、自動運転技術のベンチャー企業などへの投資も行なっています。
更新:11月22日 00:05