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「『怒らない経営』で成功した『銀のさら』」ライドオンエクスプレスHD社長 江見朗

2022年02月07日 公開

【経営トップに聞く 第59回】江見朗(ライドオンエクスプレスHD社長)

銀のさら

11期連続増収(2021年3月期時点)と快進撃を続けるライドオンエクスプレスHD。その事業の中心は宅配寿司の「銀のさら」だ。なんと、日本の宅配寿司市場の56.0%を占めている(2020年)。その成功の理由は何か? 創業社長の江見朗氏に聞いた。

 

スケールメリット、資金力、組織力より強い参入障壁とは?

――江見社長は1998年に宅配寿司を始めて、御社(2001年設立)は、今や宅配寿司市場で過半数のシェアを占めるまでに成長しました。なぜ、ここまで成長できたのでしょうか?

【江見】宅配寿司には、一時は宅配ピザよりも多くの企業が参入していました。しかし今は、大手は当社1社だけになっています。

多くの企業が参入したのは、寿司は市場が大きいからです。宅配寿司は約593億円ですが、寿司市場全体では約1.7兆円もあります(2019年)。それにもかかわらず、ほとんどの企業が事業を伸ばせませんでした。

私たちが創業したのと同時期に宅配寿司に参入した、大手宅配ピザ会社もあります。しかし、デリバリーのノウハウや資金力、組織力を持っているのに、やはりそれほど大きく展開できていません。

これは、寿司は難しいからです。市場が大きいということは、それだけ皆さんの寿司への造詣が深いということですから、品質に対して厳しいのです。ごまかしが効きません。

私自身、米国で7年半、寿司職人をしていたことがありますが、ネタへの包丁の入れ方一つで味が変わります。ネタを保管する温度の管理も必要ですし、米びつの蓋を開けたままにしているとシャリが乾いてしまいます。

一つひとつは誰にでもできる簡単なことです。けれども、すべてを徹底してやるのは難しい。私はいつも「凡事徹底」ということを言っています。

この凡事徹底のために必要なのが、アルバイトにも自発的に動いてもらうことです。

宅配寿司は、イートイン店舗と違って、デリバリーにしても、チラシ配りにしても、上司からは見えないところでアルバイトがお客様と接します。その点でも、高圧的にやらせるマネジメントではなく、モチベーションを高め、自発性に訴えかけるマネジメントでなければ、うまくいきません。

これができているかどうかが数字に直接反映されますし、他社に対する最大の参入障壁になっています。

加えて、2001年の当社設立から21年ほど経ち、店舗数も増えた今は、蓄積されたデータも参入障壁になっています。アルバイトを雇っても、注文が入らなければ、時給だけが出ていって、売上が上がらないわけですが、データを解析することで、シフトを最適化し、コストを下げられています。

――アルバイトの自発性に訴えかけるためには、どうするのですか?

【江見】重視しているのは、良好な信頼関係を築くことです。キーとなるのは、各店舗の店長です。店長がアルバイトの、そして店舗のレベルを決めます。

イートイン店舗だと、売上がほとんど立地で決まるので、店長を替えても影響がないこともありますが、デリバリーだと、店長が替われば売上が大きく変わります。ちゃんとやればそれだけの結果が出るし、適当にやっていればそれなりの結果になるんです。

――店長の教育は、どのようにしているのでしょうか?

【江見】研修センターでの教育もしていますが、私たちの教育が説得力を持つのは、数字を出しているという実績があるからです。

実際に、加盟店の赤字店舗を買い取って直営にし、黒字化しています。

加盟店と意見が対立したとき、議論をするだけでは平行線のままです。論破できたとしても、納得はしません。しかし、実績があれば、わかってもらえます。

当社は、店長とアルバイトの関係と同様に、加盟店との信頼関係も大切にしています。悪いところを見て批判し合うのではなく、良いところを見て認め合い、助け合って、感謝し合う。それが理想じゃないですか。でも、一番難しい。その一番難しいことができているから、当社は成長し続けているのです。

 

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