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社内ベンチャーだったアスクルを躍進させた、岩田彰一郎氏の「ラグビー型経営」

2021年12月24日 公開
2023年02月21日 更新

岩田彰一郎(フォース・マーケティングアンドマネージメントCEO)

 

毎週月曜日の朝礼でお客様の声を伝える

いくら立派な会社のミッションや企業文化があっても、全従業員に浸透していなければ意味がありません。

アスクルにも、「ラグビー型経営」という企業文化の他、「お客様のために進化する」という創業以来の企業理念がありますが、組織が大きくなるにつれて、やはり浸透させるのが難しくなっていきました。

そこで、20年以上にわたって行なってきたのが、毎週月曜日の朝礼です。その場で自分たちのミッションや企業文化を、私が直接伝えていました。

朝礼の場では、お客様からの喜びの声も、お叱りの声も伝えました。褒められればやる気が出ますし、お叱りの声を聞けば痛みを感じて、「いかにそれを改善するか」を考えるようになります。

お客様の声は社内カフェの掲示板にも貼り出していました。

このように、ミッションやお客様の声を根気強く伝えていくと、従業員は自分たちが社会で果たすべき役割を強く意識するようになります。また、社会に貢献できていると感じれば、モチベーションが上がり、誇りを持って仕事をするようになります。

物流センターのピンチに義勇軍が自主的にやってきてくれたのは、こうした積み重ねがあったからです。

 

勝てるビジネスモデルがあってこそ両輪が揃う

ここまで「ラグビー型経営」の話をしてきましたが、従業員が高いモチベーションで働く組織を作るには、それだけでは足りません。車の両輪のもう1つとして、「勝てるビジネスモデル」を構築することも重要です。

お客様にとって魅力がなく、頑張っても利益が出ないようなビジネスモデルのもとでは、従業員が疲弊してしまいますし、誰も一生懸命働きたいとは思いません。

勝てるビジネスモデルの重要性を痛感したのは、新卒で入社したライオンでの経験です。1960年代まで、ライオンのような日用品メーカーは問屋に商品を卸していました。しかし、問屋から値下げを要求され、疲弊していました。

そこでライバルの花王が乗り出したのが、自らの資本で販社を作って、そこを経由して小売店に商品を卸すこと。これなら販社から値下げを要求されることがありませんし、お客様の好みなどの情報も容易に吸い上げられます。

一方、ライオンは、これまでの問屋とのつながりを大切にしました。その結果、花王に大きく水を開けられてしまいました。

「商品力だけでは足りない」という経験は、プラスでもしました。

消費者テストでは好評だった新製品が、全国の文具店に置いてもらえないために、まったく売れないことがありました。なぜ置いてもらえないかと言うと、トップシェアの文具メーカーの商品を売ったほうが、メーカーから表彰されるなどのメリットがあったからです。

それを打ち破るには、文具店経由ではなく、直接、お客様に売る仕組みを作るしかありません。

実は、こうして誕生したのがアスクルです。

アスクルがうまくいった理由は、「翌日配送」「他社商品も売る」ことだけではありません。すべての業務を自社で行なうのではなく、販路の開拓や料金の回収などを文具店に担当してもらうモデルを採用したことも、理由の1つです。

こうすれば、文具店を敵に回すことなく、むしろ味方につけられます。このモデルを取らなければ、ここまで成長することはなかったでしょう。

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