2021年07月22日 公開
2023年02月21日 更新
人口が減少すると、町のインフラには余剰が出ます。そこも、無理に維持しようとしない「割り切り」が必要です。
バスク地方でも、かつて栄えた工業エリアはもう機能していません。ビルバオという町は活気ある観光地ですが、ほとんどの人が住んでいるのは歴史の古い旧市街に集約されています。鉄鋼業や造船業が栄えた時期に開発された新市街は、今は廃墟のようになっています。
産業革命の発祥地である英国のマンチェスターやリバプールも、工業で栄えたエリアはその後、大変な低迷を続け、一時期よりはマシになったとはいえ、いまだ廃墟の倉庫などが多数放置されています。
日本にも、これからそうしたエリアが増えるでしょう。
それは、当事者には少なからず痛みを与えますが、必然の流れとして受け入れなくてはなりません。少人数が生活や仕事を営むエリアを残し、あとは切り捨てる決断が必要となります。
別に後ろ向きな話ではなく、未来を向けば、必要ではないゾーンはいったん置いておいて、残る人たちに必要なものに注力するのは必然です。
平成の大合併は、それを促すための施策だったと言えます。複数の自治体をひとまとめにすることで中心地を一つに絞り、他を縮小しやすくしました。昔より不便になったと批判される方もいますが、昔のままはできないから、新たな形になっているのです。
これは決して暗い話ではありません。割り切りと発想の転換を行なった先には、「小規模で豊かになる」という新時代の活路が開けるからです。それができないほうが、よほど暗い未来になります。
では、地方に住む人が、自分の町の「強み」を見出すにはどうすればいいのでしょうか。
答えは、旅をすることです。
生まれ育った地域を出て、外の世界を体験、体感して、知見を広げましょう。各地の様々な商品やサービスを利用することで、消費者視点を養えます。その経験を経て、相対的、客観的に、「我が町」のよさを把握できるようになります。
地元にいるだけで、地元を理解することはできません。その証拠に、外からやって来た人が、住民の気づかない魅力を掘り起こして事業化するケースが多々あります。
例えば、富山県南砺市利賀村にある「レヴォ」というオーベルジュ。そこはもともと、人が半世紀近く前から住まなくなった集落の跡地でした。
フランスや国内各地で活躍してきたシェフ・谷口英司氏がたまたまその地を訪れ、ジビエや山の幸の宝庫であることを発見し、3棟のコテージとレストランなどからなる施設を作りました。
今や予約が殺到している状態で、先日、ミシュランで二つ星を獲得するに至っています。
地元育ちの人が、外の世界を経験したあとに故郷に戻り、成功する例も多数あります。
石川県七尾市の一本杉通りにある日本料理店「一本杉 川嶋」店主の川嶋亨氏は、京都をはじめ、各地で輝かしい実績を重ねたあとに故郷に戻り、同店を開店。こちらも半年先まで予約で埋まる名店となっています。
かつては日本海を航行する北前船で栄え、やがてさびれていった七尾の町に、新たな価値をもたらしています。
このように、外で高めた見識が、地域の歴史や文化的資産をより良い形で活かし、ポテンシャルを顕在化させる力となるのです。
稼ぎだけでなく、環境、生活条件などのトータルでの素晴らしいライフスタイルを実現している人たちが増加しています。確実に、10年前、20年前とはまったく異なる多様な価値観が形成されていると感じます。
つまりは、日本の経済や社会が、単なる物量評価ではない、新たな成熟と向き合い、新たな発展のあり方を見出し始めている胎動だと思っています。
こうした社会の変化を感じる旅は、自らの足で行なうことが大事です。
自分で動かず、外部のコンサルタントなどから客観的な視点を得ようとしても、おそらく無駄です。「ここが魅力だから強化するべきだ」と言われても、ピンと来ないでしょう。
自分の足で得た経験が少なすぎて、価値観が曖昧だからです。腑に落ちないまま行動に移しても、結局、中途半端になります。
自分の財布で旅をすることも、同じく重要です。会社の経費を使って当然だと考えているなら、当事者意識に欠けた旅となり、中身の濃い体感は得られないでしょう。
つまりは、自分に投資する意識を持つべきなのです。
社会変化を感じ取り、分析する学問を「考現学」と呼びます。まさに今、必要なのは考現学です。過去の知識や経験ではなく、自ら多くの地域に出向き、今起きている社会変化を実感し、事業や政策を変えていくことが求められています。
これから10年先を見通すヒントは、地域に出向き、自ら実践をすることから得られると思います。
更新:11月24日 00:05