2021年07月16日 公開
2023年02月21日 更新
では、人生が長期化する時代に、成長が期待できる産業とは何か。
私が注目する領域は三つあります。
一つ目は、ウェルネス産業です。
人生が長くなると、健康な人とそうでない人の格差が大きくなります。100歳まで生きるとすると、90歳まで元気に働く人と、60歳から病気で苦しむ人では、人生や生活の質がまったく違ってくるでしょう。
よって、健康の価値が今まで以上に高まります。医療や医薬品はもちろん、フィットネスやサプリメントなどの健康産業、アンチエイジングや美容医療なども、ウェルネス産業として極めて重要なセクターになるでしょう。
さらに、メンタルヘルス関連のサービスも、ますます需要が高まると予測されます。
二つ目は、余暇を充実させる産業です。
先ほども話したように、ホワイトカラーの仕事はAIやITへの代替が進む一方で、寿命は長くなるので、人生における余暇の総量が飛躍的に増えます。すると、仕事以外の時間をいかに豊かで幸せに過ごせるかが、人生の質をさらに大きく左右することになります。
よって、旅行やエンターテインメント、文化・芸術、スポーツなどの産業は、人間の根源的なニーズに応こたえるビジネスとして、大きな成長が期待されます。
ご存じの通り、これらの産業は、今(2021年5月)まさにコロナ禍によって大きな打撃を受けています。
私は前述のナイトタイムエコノミー推進協議会の活動で観光業界と協業したり、日本の文化を海外に発信する政府のクールジャパン戦略に携わったりしてきたので、非常に思い入れが強い産業でもあります。
コロナ禍で苦境に立つこの産業群を、何とかして未来につなげたい。その思いから、この1年間は政府に対し、各業界の需要や雇用を守るために様々なロビー活動を行なってきました。
これらの産業群について、アフターコロナの先行きを不安視する向きもあるようです。
コロナ禍を機にオンラインツールが普及し、バーチャルツアーや音楽・演劇の配信サービスなども拡大したため、「感染が収束しても、リアルで旅やエンターテインメントを楽しむニーズは以前の水準まで戻らないのでは」と考える人もいます。
しかし、私はそうは思いません。観光にしろ、音楽や演劇などのライブエンターテインメントにしろ、実際にその場に身を置き、自分の五感で感じる価値は、簡単にオンラインで代替できるものではありません。
コロナ禍が始まってまもない頃、「これからはVR観光が来る」と予測した人もいましたが、私は賛同しませんでした。VRはあくまでプロモーションツールで、リアルの観光のように大きな消費を生むものにはならないというのが私の見立てです。
例えば会議や新聞のように「機能価値」中心のものは、オンラインでより高い機能性・利便性が提供されれば代替が進みます。一方、観光やライブエンターテインメントのように「感性価値」が中心のものはそうではありません。
中でも旅行については、新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かえば、インバウンドも、国内旅行も、需要が大爆発すると確信しています。
既に2020年から、海外に行けなくなった比較的高所得な層が、頻繁に国内旅行を楽しんでいます。海外の富裕層も旅行をしたくてウズウズしていますから、移動の制限が緩和されれば一気に動き出すはずです。
私は現在、観光庁と「富裕層観光」の戦略立案を進めていますが、それも、ウィズコロナ、アフターコロナの観光において、富裕層が鍵を握ると考えているからです。
富裕層観光が増えると、日本の伝統工芸や伝統文化に良いお客さんがつきます。日本各地で数少ない職人が細々と続けているような工芸品を高い値段で買ってくれるのですから、次世代への継承が難しいと思われていた伝統文化が息を吹き返します。
また、富裕層は街並みや景観にもこだわりがあり、建築物にも高い関心を持ちます。
近年は各地で古民家の再生が行なわれているものの、修復にかけたコストの回収に苦戦しているケースが多かったのですが、富裕層向けに1泊10万円の宿にすれば、十分に収益化できます。
稼げるビジネスになるとわかれば、古い住宅や街並みの再生に投資する企業や個人が増えて、地方創生にもつながります。
これらの戦略は、インバウンドだけでなく、国内の富裕層にも通用します。伝統文化やアートが好きだったり、建築や庭園への関心が高かったりといった富裕層の傾向は、国籍や人種が違ってもさほど変わらないからです。
しかも、前述のように、海外に行けなくなったことで、国内旅行を楽しみ、日本のよさを再発見している人が多くいます。
コロナ禍前は休みのたびにハワイへ旅行していた人が、その半分を国内旅行に切り替える。そんな変化が、新型コロナ収束後も続くのではないかと考えています。
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更新:11月24日 00:05