2021年06月02日 公開
2023年02月21日 更新
とはいえ、「孤独力」は誰もが自然に身につけているものではありません。特に、現役時代に仕事中心の人生を送ってきた人ほど、定年になってから孤独力を発揮するのは難しいかもしれません。
仕事ばかりしてきた男性が、定年後に奥さんからどう思われているかご存知ですか?私が通っているスポーツクラブで、女性たちのこんな話を耳にしました。
「うちの旦那は三度の食事だけが楽しみで、それ以外はずっと私のあとをつけてくるのよ。鬱陶しいから、『フラダンスに行ってくる』と言って出てくるの」
これを聞いて私は衝撃を受けました。「濡れ落ち葉」という言葉がありますが、定年後は男性も一人で楽しむ力がないと、奥さんにも相手にされないということでしょうね。
また、肩書に頼って生きている人も、要注意です。退職してからも、「昔、○○物産にいた保坂です」のように余計な所属名をひけらかす人は、絶対に嫌われます。
今は「地の時代」から「風の時代」へと変わったように、所属や集団ではなく、人とのコミュニケーションやアイデアなどが重要視される時代です。定年後は前の職場の肩書に頼らず、自分一人でも楽しめる何かに移行する必要があると思います。
ただ、それには定年退職を迎えてから準備するのでは遅いのです。例えば65歳で定年とすると、退職後にゼロから何かを始めるにしても、3年くらいのタイムラグが生じます。人生の残り時間を考えれば、この時期に3年間も時間を無駄にはできません。
現役時代から、スピードを落とさず次のフェーズに変わっていくためには、65歳の定年退職よりも前から準備しておく必要があります。すなわち、50代を助走期間と定めて、第二の人生を充実させるために、勉強や知識、ネットワークを意識して仕込んでおくと良いでしょう。
定年後の孤独力を高めるために、現役時代から始めておくと良いことの一つは、勉強です。
私の話をすると、59歳で大学院に入り直しました。仕事のかたわら高野山大学大学院で2年間学び、密教学修士を取得しました。
きっかけは、57歳での転職です。それまでは、精神科医として若者のリストカットや摂食障害、統合失調症、中高年のうつ病などを診察していましたが、転職先の病院では、末期のがん患者さんと、その家族を支える緩和ケアチームに配属されたのです。
がん患者さんへの心のケアは、元々私がやりたかったことです。ただ、私が考えていたのは、がんの告知を受けた患者さんの心のケアであって、末期の患者さんは想定していませんでした。
実際に自分が末期のがん患者さんを看取る立場になって、急に不安や恐怖が襲ってきたのです。メンターに相談すると、「それは死生観がしっかりしていないからだ」と指摘されました。それで、仕事をしながら死生観を学ぶために、通信制の大学院の中から高野山大学を選んだのです。
この選択は、結果的にとても良かったと思っています。がん患者さんの中には、いつか再発し、死に直面する方もいます。その方たちのケアがとても重要だと気づいたからです。
私は、緩和ケアチームでの7年間の経験を経て、65歳の定年退職を機に独立開業しました。59歳から始めた勉強は、今の第二の人生にしっかりと活かされています。
50代後半から勉強なんて始められるのかと不安に思う人もいるかもしれませんが、勉強は何歳からでも始められます。60歳前後でも、脳の機能が高まっていくことは、私自身が経験しました。勉強は何歳になっても楽しいものですよ。
今は放送大学をはじめとして、地域に根ざした学びの場など、勉強する場所はたくさんあります。定年後の第二の人生への備えとして、勉強は絶対に必要なことだと思います。
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更新:11月22日 00:05