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「面白くなければ社会課題は解決できない」1→10社長 澤邊芳明

2021年06月07日 公開
2021年06月15日 更新

【経営トップに聞く 第48回】澤邊芳明(ワントゥーテン社長)

「広く浅く」を強みに、技術を街に実装する

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写真撮影:まるやゆういち

――技術面での御社の強みは、どこにあるのでしょうか?

【澤邊】スタートアップやベンチャーは、基本的に一点突破型の破壊的イノベーションを強みにしています。「狭く深く」ですね。

 ただ、一点突破では、欧米や中国に勝つことは難しいと思います。資金力が全然違いますから。

 ですから、当社は逆張りで、「広く浅く」です。一つひとつの技術を深く追求しているわけではありませんが、幅広い技術をキュレーションして、掛け合わせて使うことができる。これができる企業はあまりないと思います。

 もちろん、すべてを自社でするのではなく、他社とチームを組むことも重要です。例えば、東京の街での車いすレースをVRで楽しめる「CYBER WHEEL X」は、上り坂だと車輪が重たく、下り坂だと軽くなります。そのモーターの負荷制御は千葉工業大学と一緒に、ボディーはF1のマシンも手がけている〔株〕RDSと共に開発しました。

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CYBER WHEELX(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)

――事業をシフトするに当たって、新たにエンジニアを採用する必要もあったと思います。

【澤邊】2010年頃までは、クライアント企業の担当者にOKを出していただいて、売上が上がればよかったし、そのプロジェクトがTwitterなどで話題になればよかったのですが、マーケティングが精緻になってきて、それでは通用しなくなりました。

 そこで、モノ作りの視点を持っている人材を、経験の有無にかかわらず、どんどん採用しました。ほとんどの企業は「狭く深く」なので、あるサービスのある一部だけをずっとやっているエンジニアが数多くいます。そんなエンジニアにとっては、「広く浅く」やれる当社が魅力的に映るんです。

――事業をシフトすると、クライアントも変わると思います。クライアントの開拓は順調に進みましたか?

【澤邊】良くも悪くも、営業には苦労しませんでした。プロジェクションマッピングやVRなどを使ったソリューションは目立ったので、大企業に興味を持ってもらいやすかったんです。

 ただ、2020年代に入ると企業がインハウスで制作や開発を行なうようになったので、新たな競争が始まった状況です。

――その流れには、どのように対応するのでしょうか?

【澤邊】2020年までは、企業の中に課題がありました。その課題解決のお手伝いをするのが、当社の事業だったわけです。ご相談いただく内容も、「この製品をIoT化して、こんなことがしたい」というように、具体的でした。

 しかし、2020年代に入ると、社会課題に対して、企業と組んでどのようなソリューションを提供するかが問われるようになりました。企業からの相談の内容も、「社会課題の解決のために、自分たちはどんなことをすればいいのでしょうか?」というような、漠然としたものが増えています。

 ですから、当社の役割は、コンサルティングの側面が強くなってきています。それに伴って、技術はもちろん、マーケットや社会の変化を見ることができる高い視座を持つことが必要になっています。

 例えば、行政が様々な特区を作って新技術の実証実験を行なっていますが、コストに見合った成果を上げられていないケースが非常に多くあります。プロトタイプの実証実験だけで終わっている技術がとても多い。ユーザーが何を求めているのかをしっかりと把握して、技術を社会実装へと進めることなどに、今、取り組んでいるところです。

――企業から相談される社会課題というのは、先ほど触れていただいた、高齢化や人口減少の問題が多いのでしょうか?

【澤邊】そういった視点でのご相談も増えてきていて、いくつかの都市開発プロジェクトのメンバーにも入っています。

 当社だけで解決できる課題ではないので、幅広く様々な方々の知恵を借りるキュレーション能力を強みとして、取り組んでいます。

――海外でも事業をされていますね。

【澤邊】昨年1月には、シンガポール政府からの依頼で、セントーサ島にMagical Shoresをオープンしました。

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Magical Shores(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)

 セントーサ島はユニバーサル・スタジオ・シンガポールやカジノなどがある観光の島で、2030年までに隣のブラニ島と共に大規模に作り変える計画があります。その第1弾として、地元の人が楽しめる空間をビーチにプロジェクションマッピングを使って制作したのが、Magical Shoresです。天候や人の動きなどのデータを取得して、ディープラーニングしたAIによって演出が変化します。Magical Shoresはビッグデータをどう活かすかというクリエイティブアイデアの1つなんです。

――海外事業はこれからも進める?

【澤邊】そうですね。上海とシンガポールに法人を置いています。

 アジアの方々は、もはや日本が提供するソリューションに興味はありません。既に日本を上回っていますから。コンテンツについては、日本のアニメやゲームなどに興味はありますが、中国が大きな投資をして追いついてきています。

 しかし、体験型のコンテンツをソリューションとして機能させることは、彼らはまだやっていません。大量のデータを取得しても、それを防災や健康管理に役立てることはしても、プロジェクションマッピングなどの体験と組み合わせた都市開発はしていない。

 例えば、疲れているときは照明を落とすとか、サッカーの試合で盛り上がっているときは街も明るく演出するといった、生きた街づくりができることが、当社の強みです。

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