近年注目を集めている「ESG投資」。環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮することは企業の長期持続のために重要だが、では、個人が株式投資をする際に、ESGに配慮している企業かどうかは、判断基準の1つにするべきなのだろうか?
長期厳選投資のアクティブファンドである「おおぶね」ファンドシリーズを展開するNVIC(農林中金バリューインベストメンツ〔株〕)で常務取締役兼CIO(最高投資責任者)を務め、今年3月に『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)を上梓した奥野一成氏に見解を聞いた。
※本稿は2021年3月時点の情報に基づき、投資に対する考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入の可否を含む投資の判断はご自身の責任で行うようお願いいたします。
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人類の経済発展は、資本主義とテクノロジーの進歩による生産性の向上と、それが可能にした人口増加によってもたらされたものです。急激な人口の増加は、環境への負荷を大きく増やしました。その負荷に、環境は耐えられなくなってきています。ですから、ESGへの配慮は、当然、やるべきことです。
私が言う「株式投資」とは、短期間で売買することによって利益を得ようとするものではなく、いったん株を買ったら永久に売らないつもりで長期保有し、投資先企業が働いて稼ぎ出した利益を、株の持ち分だけ得るものです。
そのためには、投資先企業に長期にわたって利益を出し続けてもらわなければなりません。ESGに配慮しなければ、それを実現することができませんから、必然的に、「株式投資」はESGに配慮している企業に対して行なうことになります。
ただ、世の中で言われている「ESG投資」は、ほとんどが「テーマ投資」であり、私が言う「株式投資」とは違うようです。
「テーマ投資」とは、例えば、「これからはAIの時代だ」と言ってAI関連銘柄を買う、というような投資の仕方です。
しかし、こうした「テーマ」は、本当に長期的なものでしょうか。ある程度のスパンで予想される社会の変化かもしれませんが、不可逆的に世の中を変えるほどのインパクトを持つかどうかはわかりません。単なるファッションのように思います。
それに、AI関連銘柄と言っても、本当に持続的に利益を上げることのできる強い企業もあるかもしれませんが、将来倒産してしまう企業もあるでしょう。AIを手がけている企業が全部、長期的に利益を出し続けるとは考えられません。
ESG投資も同じで、ESG関連銘柄だからと言って、長期的に利益を出し続ける企業だとは限りません。先ほどもお話ししたように、長期的に利益を出し続けるにはESGに配慮することは前提条件であって、ことさらESG投資を勧める人は、むしろ注意すべきではないかと思います。
中には、「ESGに配慮している企業を応援したいから、ESG関連銘柄を買う」という人もいるかもしれません。
それをボランティアでされるのなら、私が言うことは何もありませんが、株式投資によってしっかり利益を上げるという目的においては、「応援する」ことにあまり意味はありません。
その企業を応援するだけで株価が上がるほど株式投資は甘いものではないからです。あくまで、投資をする企業が「長期的に利益を出し続けられるかどうか」にこだわるべきです。
このような話をすると、「利益の亡者」との批判を受けそうです。これは、根本的に日本人の多くが、「利益」というものが何か悪いものであるかのように考える誤解から生じているように感じます。
利益というものは、社会の問題を解決した対価です。長期にわたって利益を出し続けるということは、社会の問題を解決し続けるということ。社会に対して悪である企業は、たとえ短期的に利益を出せたとしても、中長期的には必ず破綻します。
ですから、長期的に利益を出し続ける企業にこだわって投資をすることは、結果的に、社会課題の解決につながるのです。
「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏は風力発電などにも投資していますが、それは、政府から補助金を得られることもあり、きちんと利益が出るからです。バフェット氏は、何が正しいのかを一般的に決めることは難しいとして、昨今のESGの風潮には距離を置いているようです。
株式投資にとって重要なのは、投資する企業が「長期的な利益を上げ続けているかどうか」であり、ESGはその前提に過ぎない。そのような株式投資は結果的に社会課題を解決することに繋がる。このことを、ぜひ、理解していただきたいと思います。
更新:11月21日 00:05