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聞く耳をもたなかった農家が振り向いた…「青森の誇り」に光を照らしたリンゴシードル

2020年10月13日 公開
2020年10月20日 更新

鎌田由美子(ONE・GLOCAL代表取締役/クリエイティブ・ディレクター)

鎌田由美子

駅構内のイメージを大きく変える「エキナカ」の開発を35歳で手がけ、その運営会社の社長も務めた鎌田氏。その後に訪れた人生の転機とは?

※本稿は『THE21』2020年10月号から一部抜粋・編集したものです

 

「地元の誇り」に光を照らすために

現在、私は、日本各地に根づいた農業などのモノ作りと連携し、地域を活性化させる事業を手がけています。こうした仕事を生涯続けたいと思ったきっかけは、42歳で、エキュートの社長から本社事業創造本部の部長になったことでした。

JR東日本に入社後、新規事業に多く携わっていて、このときの異動では地域活性化事業を新たに始めました。グループ各社からの様々な相談に応えると共に、鉄道と連動した新しいアイディアも求められる仕事で、その一つが、新幹線が開通する青森の案件でした。

まず現地に行きましたが、百貨店も商店街も閑散としていました。それを見て、商業施設を作ることは選択肢から消えました。東京のブランドを口説いて地方に出店してもらう時代は終わった。

地元の素晴らしい素材を使い、地元の人と一緒に、地元が誇れる加工をできないだろうか。それは何なのか、と考え続けていたときに目に入ったのが、誰もいない中で咲き誇る美しいリンゴの花でした。

瞬間、フランスのノルマンディーからブルターニュにかけてのシードル街道を思い出しました。数多くのリンゴ農家が、リンゴの発泡酒であるシードルや、それを蒸留したカルバドス(アップルブランデー)を製造し、皆、「うちが世界一だ」と誇っている観光地です。

日本一のリンゴの産地である青森でシードルを作れば地元の誇りになり、観光客にも喜ばれるはず。そう考えたのですが、話を聞いてくれる農家はありませんでした。

立派なリンゴを作ることに誇りを持っているだけに、「加工はみっともない」と考えていたのです。そこで、まずは加工品の魅力を結果として示さなくては、と考え、新幹線開業に合わせた工程で、シードルプロジェクトに着手しました。

JR東日本は鉄道会社で、お酒の醸造や蒸留の知識はありません。弘前地域研究所の知見と六花酒造の協力のおかげで、「アオモリシードル」が誕生しました。

加工施設のA-FACTORYは、地域活性化を目的とし、観光の拠点にするため、「魅せる工房」にしたいと考えて、片山正通さんに設計を依頼しました。土地と調和したモダンな建物と、すべての工程が見られるガラス張りの工房は、地元の小学生が授業で見学に来る場にもなりました。

シードルは、種類が多くあって初めて、比較購買の楽しみが増します。きちんと黒字化すれば、地元の参入が増え、結果として観光地化につながる、という夢がありました。

その期待通り、今では何社もの農家のシードルが地域で作られ、イベントも行なわれていますし、地元だけでなく、お土産やギフトなどで、たくさんの人たちに楽しまれるようになりました。

本当に嬉しいです。地域それぞれにある素材を、多様な視点で販路につないでいく楽しさを実感し、それが今につながっています。

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