2020年07月13日 公開
2023年02月21日 更新
次に小売店にとって痛手なのは、めったに買わない特別な、ただし金額は数千円程度の小さな商品の購入です。私が最近買った例でいえば、パソコン2台のモニター切り替え機とか、簡易型のタイヤチェーンとか、室内で素振りをする運動器具みたいなやつです。
こういう商品は小売店から見ると、買い手の商品知識がないので、利幅がとれる価格で売ることができます。例えばビックカメラで言えば、大画面テレビやドラム式洗濯機のような高額商品よりも、OA消耗品のほうが利幅は取りやすい。
それで今までは、顧客が店頭にやってきて、「こんな用途のプリンタ用紙はどこにありますか?」と尋ねて買ってくれていた。しかし、それが徐々に、ネットのほうが情報も集まるし、製品の選択の幅もネット通販のほうが広い、という状況になってきたのです。
アメリカではこの状況はもっとひどくて、例えばパソコンの周辺機器はもうリアルな店舗で買うことができなかったりします。
実際、昨年のアメリカ出張でうっかり日本からUSBハブを持っていくのを忘れ、ノートパソコンでの作業で不便を感じたことがありました。
現地で調達できると思ったのですが、ショッピングモールとウォルマートのようなディスカウントストア、どちらに行ってもUSBハブは見当たらない。スマホコーナーはあっても、パソコン周辺機器コーナーがそもそもないのです。
こうして、「一部の消費者がたまにしか買わないような商品」はネットに需要が移り、需要がネットに移ったことで小売店が扱わなくなるという悪循環が起きます。小売店にとって売り場効率を上げているうちに、知らず知らずのうちに利幅の大きい商品群の売上げが消滅する。そんな現象が第二段階として起きます。
こうして家電量販店、しまむらのようなアパレル量販、スポーツ用品店などの業態でも売上高が2割、3割と削り取られてリアル店舗の収益性が低下していくのです。
さて、アマゾンは小売以外の業界にも悪影響を与えていきます。アマゾンプライムのサービスのひとつにアマゾンビデオがあります。
私の家もそうなっているのですが、アマゾンプライムの会員は、自宅の大画面テレビにFire TV Stickというキーケースぐらいの小さな機器を差すことで、インターネット経由でたくさんの新作映画やテレビドラマ、バラエティ番組が無料で見られるようになります。
このサービスはまっさきにWOWOWやスカパー、ケーブルテレビといった有料放送サービスと競合するようになります。
そして、プライムビデオを使うようになると、視聴者のテレビの見方がちょっと変わってきます。まず自宅でテレビよりも映画を観る時間が増える。そのうち、無料映画だけだと満足ができなくなるのですが、その場合、アマゾンから動画をレンタルできます。
例えば、マーベルの『アベンジャーズ』シリーズの映画が見たいとなると、48時間レンタルで199円でダウンロード視聴できる。そのためTSUTAYAやゲオといったメディアのレンタル・販売業態も打撃を受けるようになります。
ユーザーは、最初はアマゾンプライムが無料で提供する映画やドラマから始まって、それだけで我慢できなくなると、月額1000円前後で楽しめるネットフリックスやHuluといった有料ダウンロードサービスを追加で使うようになります。
このような動画ダウンロードの視聴時間が増えることで、地上波テレビも打撃を受けます。
アメリカでは、全国ネットワークのテレビ局が人気ドラマの新シーズンの放送を始める際に、ネットフリックスのような動画ダウンロードサービス会社と組んで、旧作のプロモーションを行ないます。
そうやって旧シーズンを見ることで、新シーズンの視聴率が上がる。これを最初、テレビ局はWin‐Winの関係だと喜んでいたそうです。
しかし徐々に、そうではないことがわかってきました。テレビ局は番宣をするのにネットフリックスに依存しなければならなくなるとともに、視聴者の時間の大半がネットフリックスに奪われていることがわかってしまいました。
日本でも、アマゾンプライム会員が増加するにつれて、同じ現象が起きるでしょう。そして長期的には、フジテレビやテレビ朝日、日テレ、TBSの視聴者はアマゾン、ネットフリックス、Huluといったプレイヤーに奪われていくのです。
更新:12月04日 00:05