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過剰なほど周囲に気をつかってしまう…「STAY HOME」が招く“恐怖中毒症”

2020年06月09日 公開
2022年08月16日 更新

名越康文(精神科医)

 

人は快楽だけでなく、苦しみの中毒にもなる

新型コロナウイルスに対する恐怖心も、心理的負担を増大させている。

「人々は今、『恐怖依存症』とでも呼ぶべき心理状態です。ネガティブな情報が次々に入ってきて、怯えた状態が定常になっている。そして、『まだまだ恐いことが起こっているかもしれないから、もっと新型コロナのことを知らなければ』と思い、ひたすらネガティブな情報を脳に入れ続ける。まさに中毒状態です。

人間が中毒になるのは、快感を得られるものだけではありません。苦いコーヒーの中毒になることもあるし、麻薬にしても、ある時点からは快楽より苦しみのほうが大きくなります。それでも止められず、嗜癖は続きます。人間は自分にとってマイナスになることにでも依存症になるのです」

しかも、ネガティブ情報の依存症に陥った人は、たとえポジティブな情報が入ってきても、それを受け入れられなくなる。

「新型コロナウイルスに関する情報の中には、実はポジティブなものもたくさんあります。

例えば5月上旬に放送されたNHKの番組で、WHOのシニアアドバイザーである進藤奈邦子医師が、日本は死者数も少なく、新型コロナウイルス戦略が非常にうまくいっていると高く評価しました。理由も論理的でわかりやすかったこともあり、大勢の人たちが番組の情報をリツイートしています。

ところが恐怖依存症になった人は、同じ情報を見ても頭に入らない。『いや、そんなはずはない。もっと恐いことが起こるはずだ』と否定し、恐怖を与える情報ばかりを追いかけます。そして新たなネガティブ情報が入ってくると、ちょっと安心する。『やっぱりまだまだ恐いことはあるんだ』と確認できたことで、むしろ心が安定するわけです。

ネガティブな情報にしかリアリティを感じられないし、信頼できない。完全な依存症ですよね。その中毒状態が、結局は自分を追い詰め、苦しませることになります」

 

理屈で考えれば、道理が見えてくる

では、恐怖に支配された脳に、再びポジティブな情報を届けることはできないのか。名越氏は「理屈で考えること」が一つの突破口になるのでは、と話す。

「理屈で考えれば、道理が見えてくる。僕はそう思います。例えば、新型コロナウイルスによる死者の割合について考えてみましょう。

欧州で特に被害が大きいイタリアの死者数は約3万人です(取材は5月中旬に行なった)。イタリアの人口は約6000万人。よって、人口当たりの死亡率は0.05%です。

もし日本での死亡率がイタリアと同じだったら、どうなるか。日本の人口を1億2000万人とすると、死亡率が0.05%なら6万人は亡くなっている計算になります。ところが、この時点での日本の死者数は約700人。つまり、イタリアのほぼ100分の1の水準です。

感染が始まった時期が異なるにせよ、これだけ死者数を抑えられているのは奇跡的ですよ。理屈で考えれば道理が見えると言ったのは、こういう意味です。

これから抗体検査や抗原検査などの疫学調査が行なわれれば、身近な病気との比較も可能になるかもしれません。さらに最近では、このウイルスには人間の自然免疫が効いているのではないかという説も出てきました。こうした理屈が明らかになれば、今のただただ『コロナが恐い』の風潮は変わってくるかもしれません」

ビジネスパーソンなら、普段から数字やデータなどのファクトを扱い慣れているはずだ。だが今回のような危機的状況になると、なぜかメディアやSNSの情報を鵜呑みにしてしまう。

「さっきの死亡率の計算なんて、算数のレベルですよね。死者数を人口で割り算するだけですから、小学生でもできます。

ところが、そんな簡単な算数さえやろうとしない。日本人の算数嫌いは根深いということでしょう。

恐怖依存症になるかならないかは、学歴や知識の量とはどうやら関係ありません。インテリや知識人と言われる人でも、恐怖の情報しか信頼できず、自分も恐怖の情報しか発信しない人がたくさんいる。勉強ができれば物事を理屈で考えられるわけではないということです」

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