2020年06月07日 公開
「PickGo 買い物代行」のホームページ
――御社を起業した経緯についてもお聞きしたいと思います。なぜ、運送業界をITで変えようと考えたのでしょうか?
【松本】 もともと関心があったのは空の世界で、高校卒業後は航空保安大学校に進学し、国土交通省に入省して、航空管制官として羽田空港で働いていました。そのとき、運送業者を経営する、まだ結婚する前の妻の父と出会ったんです。
義父は、もとはクルマの整備や販売をしていたのですが、冷凍軽貨物自動車を作って販売するようになり、さらに、それを購入した顧客のために配送の仕事の手配もするようになっていました。その業務はすべて、電話や紙ベースのアナログなものだったので、私がプログラミングをして運行管理システムを作ったんです。SmaRyu Truckの前身のようなものですね。プログラミングは、高校生のときに、父がやっていた事業の課題を解決するため、独学で修得していました。
それで、義父に「一緒に物流をやろう」と言われるようになり、それほど必要としてくれていることに感激して、国交省を辞めることを決意しました。ところが、その翌月、義父が亡くなってしまいました。
――それで、会社を引き継いだのですね。
【松本】 当時、私は25~26歳。会社を存続させるために営業に回ったのですが、運送業の経験がほとんどない若者は相手にされませんでした。
そこで考えたのが、自分で作った運行管理システムを新聞に取り上げてもらうことです。各新聞社に飛び込み営業をした結果、ある新聞に取り上げていただくことができ、それによって営業先に話を聞いてもらえるようになりました。
――そのまま義父の会社を続けるのではなく、ベンチャーを立ち上げた理由は?
【松本】 新聞記事を見て、投資をしていただける方が現れたんです。それで調べてみると、日本の軽貨物自動車の台数はタクシーと同じくらいありました。当時、会社には50名ほどのドライバーがいたのですが、その50名ほどだけでなく、日本全国のフリーランスドライバーの役に立つ仕事をしたいと思い、当社を設立することにしました。
――新たに会社を設立すると、社員を集める必要もあったと思います。
【松本】 1人目は、航空管制官をしていた国交省の同期に入社してもらいました。2年間、寮で一緒だった人です。2人目は、中学校・高校の同期のエンジニア。運送業界から入社した人は少ないですね。
起業するときには友人や知人に声をかけるケースが多いと思うのですが、私の場合、航空保安大学校の同期は20名くらいしかいませんし、人集めには苦労しました。
――ちなみに、航空管制官の経験は運送業や御社での仕事に活きるのでしょうか?
【松本】 飛行機は空で、トラックは陸ですよね……直接活きることは、あまりないかもしれません。ただ、体育会系でウェットな世界だというのは共通していますね。また、羽田空港の管制官は、リカバリープランも持ちながら、同時に20機ほどとやり取りをしなければならず、決断力が求められます。それは今の経営や事業作りに活きていると思います。
――創業してすぐに事業は軌道に乗りましたか?
【松本】 地道に営業活動をしたり、メディアに取り上げていただいたりして、徐々にサービスを受け入れていただける企業が増えていきました。
昨年には佐川急便〔株〕と資本・業務提携を結ぶこともできました。当社が得意とする緊急の配送で、佐川急便をサポートしています。佐川急便がベンチャーに出資するのは当社が初めてです。
大きかったのは、もともと我々が実際に物流事業をしていたことだと思います。それが、営業先の方々に心を開いていただけるポイントになりました。現場を知っているからこその機能がプロダクトの細かいところに反映されていることが、高く評価されていると感じます。
――運送業界から入社した社員は少ないということですが、そうすると、配送ドライバーの現場を知らない社員が多くなるのでは?
【松本】 そうならないように、今は新型コロナウイルスの影響でできていませんが、配送ドライバーと同乗する研修もしていますし、プロダクトの機能を開発するエンジニアには必ず現場を体験してもらっています。
――社員数が増えると、マネジメントも大変になると思います。
【松本】 ベンチャーを選ぶ大きな理由は「成長したい」ということだと思います。ですから、そのモチベーションを阻害しないこと、個人が成長しやすい組織にすることを意識しています。例えば、「PickGo 買い物代行」のプロジェクトには、新卒2年目の社員にも入ってもらい、各所との調整などをしてもらいました。そうした成長の機会を多く用意するようにしています。
――最後に、これからの取り組みについて教えてください。
【松本】 運送業界は多重構造になっているため、質の良い仕事をしているのに収入を上げられない配送ドライバーが多くいます。その状況を改善し、質の良い仕事をしている配送ドライバーが自分で仕事を受けて、収入を高めていけるようにすることを、当社は目指してきました。これは、これからも続けていきます。
それとともに、世の中が配送ドライバーに貼っているレッテルをはがしたいとも考えています。そのためには、配送ドライバーが提供している価値を可視化することが必要だと思います。「PickGo 買い物代行」は、そのための施策の一つです。他にも様々な方法が考えられるでしょう。
――PickGoやSmaRyuと同様のサービスを展開する他社、あるいは、これから参入してくるかもしれない他社については、どう見ていますか?
【松本】 まず、当社と他社では思想が違うと思います。当社が目指すのは、配送ドライバーの価値を上げることです。努力している配送ドライバーが稼げるようにすることが、当社のサービスの目的です。
また、当社のサービスの中には配送ドライバーの評価が既に多く蓄積されていますから、荷主やユーザーに安心感を持って利用していただけると思います。
更新:11月23日 00:05