2020年06月07日 公開
私たちの生活は、物流を支える配送ドライバーたちがいてこそ成り立っている。しかし、物流業界には非効率な部分が多く、配送ドライバーの平均所得は全産業の平均より低いのが現状だ。この状況をITの力で変えているのが、2013年設立のベンチャー企業・CBcloud〔株〕。航空管制官出身という異色の創業CEO・松本隆一氏に話を聞いた。
――御社はPickGoやSmaRyuというサービスを展開しています。PickGoは、配送ドライバーと荷主をマッチングするサービスですね。
【松本】 2016年のサービス開始以来、軽貨物自動車のフリーランス(個人事業主)ドライバーと荷主とのマッチングプラットフォームとして成長してきました。現在、全国1万5,000名以上のフリーランスドライバーに登録していただいています。
今年2月には、「PickGo一般貨物」というサービスも、まずは関東エリアから始めました。これは、2tトラックや4tトラックなど、一般貨物自動車の運送事業者と荷主とをマッチングするプラットフォームです。軽貨物自動車だけでなく、一般貨物自動車にもサービスを拡大したことで、すべてのタイプの貨物自動車とのマッチングが可能になりました。
――配送ドライバーと荷主とのマッチングプラットフォームは他社も運営しています。PickGoの特長はなんでしょうか?
【松本】 マッチング率が99.2%と高く、しかも、56秒以内という短時間でマッチングできるので、緊急の仕事にも対応できることです。登録ドライバーの数が多いからこそ実現できています。
ちなみに、軽貨物自動車のフリーランスドライバーの協同組合である赤帽の登録ドライバー数は約1万1,000名で、PickGoの登録ドライバーのほうが多くなっています。
――なぜ、それほど多くのフリーランスドライバーに登録してもらうことができているのですか?
【松本】 当社はもともと運送業者で、そこからベンチャーに転身したんです。ですから、配送ドライバーの立場に立ったサービス設計ができています。
例えば、配送ドライバーが荷主の依頼を早い者勝ちで受注するのではなく、複数の配送ドライバーがエントリーできるようにしています。すると、荷主は配送ドライバーの評価を見て、どの配送ドライバーに発注するかを決められます。配送ドライバーの側から見れば、日々の仕事の質を高めるほど、荷主に選ばれやすくなる。つまり、努力をすれば稼げるようになっているわけです。
質の高い仕事をする配送ドライバーの収入を高くすることは、当社がずっと取り組んでいるテーマで、中にはPickGoで月に100万円以上の収入を得ている配送ドライバーもいます。フリーランスなので自分で仕事を取る必要がありますが、PickGoに登録することで、自分で営業活動をする必要がなくなったという方も多くいます。
また、〔株〕三井住友銀行、ウェルネット〔株〕の決済サービスを使って、仕事を終えたら即日入金できるようにしています。配送ドライバーの仕事は、ガソリン代や駐車場代、高速道路料金など、先に出ていく経費が多いので、キャッシュフローをよくするためです。
――配送ドライバーの評価というのは、荷主がつけるのですか?
【松本】 それだけでなく、GPSの情報やドライバーからの報告から、決められたワークフローに従っているかなどを自動で判断したりして、当社が独自に開発したアルゴリズムで総合的に評価しています。
――配送ドライバーの募集方法は?
【松本】 今は配送ドライバーのほとんどがスマホを使って仕事をしていますから、ネット広告も出していますし、紹介制度もあります。また、新たに配送ドライバーになるハードルを下げるために、当社が車両をリースするサービスも行なっています。
――次に、SmaRyuについてお聞きします。今年3月に公開されたサービスで、宅配業者向けのSmaRyu Postと運送業者向けのSmaRyu Truckがありますね。
【松本】 宅配業者にとって大きな課題は人手不足です。そのため、当社に宅配を手伝ってほしいというお話をいただいたのですが、宅配の現状はドライバーの価値を上げるものになっていないと感じました。ラミネート加工された住宅地図に赤ペンで配達先をマークしてルートを描くなど、アナログで属人的なんです。これでは若者も定着せず、人手不足の問題が解消されません。
そこで、宅配の効率を上げるためのSaaSとして開発したのがSmaRyu Postです。大手宅配業者のドライバーが持っている端末には荷物をトレースする機能くらいしかないのですが、SumaRyu Postはドライバーのスマホにインストールするだけで、それに加えて、配送ルートを自動で作成したり、車内での荷積みの位置を自動で指定したりすることができ、ドライバーの仕事をサポートします。既にASKUL LOGIST〔株〕などに採用していただいています。
SmaRyu Truckは、運送業者ではいまだに電話や紙ベースでの業務が多いので、それを効率化するためのSaaSです。社内情報の連携や若い社員の教育、定着のために必要だという声をいただいて、開発しました。
ひと言で言えば管理業務をウェブで完結させられるサービスで、配送指示、配車表の作成、配送情報の管理、請求書の作成などが行なえます。個々の業務ができるサービスは従来もありましたが、これらを一貫して行なえるのがSmaRyu Truckの特長です。また、運送業界は多重構造になっているので、協力会社の車両まで管理できるのも大きな特長です。
――政府が「働き方改革」を掲げていますが、運送業界でも業務を効率化しようという動きがある?
【松本】 人手不足が続く中で、1~2年前からその動きが強くなっているように感じます。
――今は事業拡大に良いタイミング?
【松本】 タイミングという意味では、配送ドライバーがスマホを持つようになったことが大きな追い風になっていますね。PickGoもSmaRyuもスマホを使ったサービスですから。
――新型コロナウイルスの流行の影響は?
【松本】 スーパーへの商品の配送や、一時はトイレットペーパーなどの紙製品の配送で、緊急の仕事が増えました。一方で、定期的にあった仕事には減っているものもあります。
――4月27日に、1都3県と愛知県、大阪府、福岡県で「PickGo 買い物代行」というサービスを新たに始めましたね。
【松本】 PickGoの登録ドライバーが、ユーザーに代わって、スーパーやドラッグストアなど、最大3店舗での買い物を代行し、宅配するサービスです。
5月14日には、店舗側が「PickGo 買い物代行」内に店舗情報や商品情報を登録できるアプリもリリースしました。
店舗にとっては、営業自粛や営業時間の短縮を余儀なくされている中で、自前でECを始めることなく、ノーリスクで通信販売を始められるので、喜んでいただけています。
――新型コロナウイルスの流行が終息しても、「PickGo 買い物代行」は続ける?(取材は4月30日に行なった)
【松本】 そう考えています。
更新:11月23日 00:05