2020年03月16日 公開
2024年05月29日 更新
ただし、後天的能力は教育すればすぐ伸びるわけではありません。
よって採用基準を決める際は、「教育の機会を提供するつもりがあるか」「成果を出すまでどれだけ待てるか」を合わせて考え、「いつまでにどれくらいのリターンを期待するか」を明らかにしてください。入社後の教育とセットで考えて採用基準を決めないと、せっかく採った人材を生かすことはできません。
一方で、教育では変えられないものがあります。それが「価値観」です。よって採用基準の設定では、むしろ「価値観のマッチング」を重視すべきです。
特に若い世代は、仕事にやりがいや自己実現を求めています。東日本大震災以降はその傾向がさらに強まり、人材会社ディスコの「2019年採用マーケット分析」によると、新卒学生が就職先を決めた理由のトップは「社会貢献度が高い」でした。裏を返すと、会社と価値観が合わなければ、採用しても辞めてしまうということです。
よって企業は、「自社で働くとどんなやりがいや喜びを得られるか」を言語化し、その価値観を採用基準に盛り込むことが必要です。さらには採用活動の中で、企業が学生や求職者に会社の価値観をもれなく伝えることが大切です。
ポイントは「既存の社員たちはなぜこの会社で働き続けているのか」「どんなときに働きがいを感じているか」という事実を伝えること。すると相手は、自分と会社の価値観が合うかどうかをセルフスクリーニングできます。
会社としての採用基準は、「なぜ自社にこの基準が必要なのか」の論拠とともに言語化し、「採用基準シート」として、採用に関わる人たちで共有してください。
このシートを作る際は、社内で高い成果を出している社員の仕事を観察したりヒアリングしたりして、共通する能力や行動特性を見つけ出します。ここでやってはいけないのが、経営層や現場などそれぞれに「どんな人がいいですか?」と意見を聞くこと。意見とは主観なので、必ずしも正しいとは限りません。実際に活躍している社員を観察して、客観的な事実を把握すべきです。
採用基準の設定やプロセス管理を担う人事は重要な仕事ですが、社内調整に追われて、気づくと世間の感覚とずれてしまう……という危険性があります。社外の情報収集を欠かさず、ビジネス環境やマーケットについて知り、経営的な視点を養わなければ採用の戦略は立てられません、社内・社外のバランス感覚を持つことが「いい人事」の条件です。
<『THE21』2020年3月号より>
更新:11月22日 00:05