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『文化人類学の思考法』を読んで、『魁! クロマティ高校』に思いを馳せる

2019年10月21日 公開
2022年11月14日 更新

〈連載 THE21的キーブック〉松村圭一郎編・中川理編・石井美保編/世界思想社

AI

 最近、『文化人類学の思考法』を読んだ。

 文化人類学とは、文化という概念を中心に、他者と他者が織りなす社会を比較し、さまざまな「差異」を浮き彫りにすることで、他者を理解し、自分という存在のイメージを明確にする学問だ。

 本書は、文化人類学という学問をわかりやすく解説すると同時に、その思考法を用いて、文化人類学を専攻したことのない人にも、今の世界を理解するための手がかりを提示する。

 文化人類学初心者の私にとって、印象的だったのは「技術と環境」の章だった。

「技術によって人の生活が成り立っており、同時に人の生活のなかからその必要に応じて技術が作り出されている。この相互的因果を考えることは、人と世界のかかわりを考えることにほかならない」(原文ママ)。

 そこで、「環世界」という考え方が必要になるのだという。環世界とは、「すべての生物は自分の持つ知覚を通じてのみ世界を理解するので、各々が主体的に構成する世界を生きている」ことを意味するらしい。とすると、知覚を媒介するモノが違えば、そのぶん世界の見え方も変わるということになる。

 例えば、スマホがないと落ち着かないという現代人がいるとする。彼(あるいは彼女)にとって、スマホは日常を構成し、生活を規定する大事な要因だ。つまり、スマホを媒介として見ている景色が、彼にとっての「世界」ということになる(そして、同時に彼はスマホを通じて世界に何らかの影響を与えているらしい)。

 つまり、同じ人間でもスマホを使わない人とは感覚が違うので、当然世界の捉え方も世界への影響の与え方も違うということになる。

 ここまで理解したところで、私は『魁! クロマティ高校』のメカ沢新一のスゴさに気がついた。

『魁! クロマティ高校』は、ちょっと個性的でおバカな不良高校生たちが繰り広げる日常系ギャグマンガで、そこにメカ沢新一というロボット高校生(見た目はまんまドラム缶)が登場する。彼は、機械に頼りすぎた世の中を危惧し、デジタルに侵された現代に向けてこう警鐘を鳴らす。

「やっぱ、そこに心が通い合わなきゃスゲェむなしいと思うんだよ……このままじゃオレたち……機械に支配されちまうぜ!!」

 メカ沢は現代人と同じような知覚を通じて、世界を眺めていたのか。いや、むしろアナログ人間的な考え方かもしれない。

 同時に、メカ沢は世界にも影響を与えている。当初は、メカ沢のセリフに対して「それはひょっとしてギャグで言っているのか!?」と突っ込んでいた主人公たちも、容姿の違いに戸惑いながらもメカ沢をなくてはならない仲間として受け入れ成長していく。あふれんばかりの漢気もあり、不良からの人望も厚い。

 余談だが、作者が飽きたのか、この後メカ沢の扱いはどんどん雑になっていく。が、それはまた別の話である。

 ビジネスシーンで、AIの仕事代替論はホットなトピックの一つだ。しかし、AIが人間と同じ知覚を持つようになれば、驚異的な存在ではなく、気の置けない友人になる日が来るのかもしれない。文化人類学は、そんな可能性を示唆してくれるのである。(N)

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