2019年11月01日 公開
2023年02月24日 更新
起業家のための雑誌『アントレ』の編集者として18年間に3,000人超の取材に携わり、その後、起業家の支援を行なっている天田幸宏氏は、「ひとり起業」で成功している人にはいくつかの共通点があると言う。その一つが、「コンセプト」だ。
※本稿は、天田幸宏著・藤屋伸二監修『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
「エレベーターピッチ」という言葉を聞いたことはありますか? 資金を必要とする起業家がエレベーターに乗り合わせた投資家にわずか数十秒で事業の特徴や魅力を説明して、興味をもってもらうための行為やテクニックのことを意味します。
これはひとり起業でも同様で、自らのビジネスのコンセプトを悠長に説明していたら、聞き手の心のドアはすぐに閉まって終了です。
今やプレゼン能力や表現力は「顧客獲得能力」と同じくらいの価値をもっていて、ひとり起業家も例外ではありません。
事業の魅力をシンプルに表現するうえで重要なのが「コンセプト」です。「コンセプト」は一般的に「概念」と訳されますが、ビジネスの世界においては「事業を貫く中心思想、基本的な考え方」といった意味で使われます。本書では、「誰に、何を、どのように提供するか?」といった「事業の本質をひと言で表したもの」と定義しています。
コンセプトに求められる要素は2つです。「新規性(インパクト)」と「共感性(実現可能性)」です。コンセプトに触れた人が「ちょっと斬新で、面白そう。どこか心に残る」。そんな気持ちになってくれることが理想です。
ただ、この両者のバランスをどこでとるのかがポイントです。「新規性」や「インパクト」が強すぎると時代を先取りしすぎて一部の人しか理解できません。「共感性」や「実現可能性」が強すぎると「ふーん(それで?)」という印象で終わってしまいます。
一方、「新規性」と「共感性」のバランスのとれた「コンセプト」は、「それいいね」「もっと聞かせて」「それほしかった」といった声が寄せられるようになります。
さらに、「コンセプト」を伝える先には大きく2つの方向性があります。1つはハリウッド映画のように万人から愛されることを目指すもの。もう1つはひとり起業のように、小さな市場や対象者を特定している事業で使われるものです。ひとり起業の「コンセプト」は八方美人になる必要はなく、「この人にだけ評価されればいい」という割り切りが必要です。
コンセプトを「この人にだけ」と割り切った好例があります。
65歳以上に向けた賃貸物件を扱う「R65不動産」を運営する山本遼さん(東京都)は、勤めていた不動産会社を脱サラして起業しました。賃貸住宅は「高齢」というだけで入居を断られるケースが多く、高齢者の部屋探しが困難を極めている現状を打破したい、という思いからスタートしたそうです。
「高齢者可の物件あります」でスタートした山本さんの事業の特徴は、「65歳以上の入居希望者専門の不動産会社」に発展を遂げた点にあります。その事業名は「R65不動産」。事業名にはコンセプトを構成するうえで必要な「誰に、何を」がきちんと表現されているだけでなく、「高齢者でも自分らしく生きられる世の中をつくりたい」という願いも込められています。
このように市場や対象者を限定した事業のコンセプトを、私は「黄金のコンセプト」と呼んでいます。「黄金のコンセプト」があれば、対象者のほうから問い合わせが入りますので、過剰な広告宣伝ややみくもな営業活動が大幅に削減できます。人的資源が限られるひとり起業において、「黄金のコンセプト」はとても強力な武器になるのです。
ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』において、「自らの強みを生かそうとすれば、その強みを重要な機会に集中する必要を認識する」と述べています。
このことは、最も重要なことに優先的、集中的に取り組むべきと説いています。そのためにも、「どんな事業で、誰に貢献するのか」をシンプルに表現することが必要なのです。
POINT コンセプトに必要なのは「新規性」と「共感性」
更新:11月25日 00:05