2019年10月29日 公開
2023年02月24日 更新
起業家のための雑誌『アントレ』の編集者として18年間に3,000人超の取材に携わり、その後、起業家の支援を行なっている天田幸宏氏は、「ひとり起業」で成功している人にはいくつかの共通点があると言う。その一つが、事業を行なう市場だ。
※本稿は、天田幸宏著・藤屋伸二監修『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
ひとり起業において大切なのは、価格競争に巻き込まれないことです。
値決めの主導権を一度手放したら最後、市場に翻弄される経営が待っています。下請けの仕事が何かと窮屈で不自由に感じるのは、あらかじめ予算が決められていることによって、経営の自由度や選択肢が狭くなってしまうためです。これは「値決めは経営」といわれるゆえんでもあります。
では、どうしたら値決めの主導権を握ることができるのか?その1つの答えが、市場規模は小さくてもかまわないので「独占的な立ち位置」を確保することです。ここでは、その状態が確保、維持されていることを「独自化」と呼ぶことにします。
「独自化」は、技術やスキルを磨く「差別化」とは異なります。「差別化」が「そこまでやるのか!」と思わせるのに対し、「独自化」による第三者からの反応は「何それ?」です。その本質は、顧客ニーズを掘り起こし、新たな市場を創造することにあります。
ここで、「独自化」に成功した例を紹介します。
冷凍食品メーカーに勤めていた西川剛史さん(東京都)は、その技術と経験を活かして冷凍食品の専門家として起業しました。講演や書籍、個別指導を通じて、家庭における冷凍テクニックを伝授しています。
野菜ソムリエとして活動していた経験を創造的に模倣した西川さんは、やがて「冷凍生活アドバイザー」の養成にも着手しました。その結果、全国に仲間を増やすことによって、今や冷凍生活の魅力とそのノウハウが一気に広がりを見せています。
ここでのポイントは、西川さんが飲食店や業者向けといったプロ向けではなく、一般の生活者に向けて活動することを決意したことでブルーオーシャン(非競争の市場)になったことです。西川さんの肩書きの「冷凍生活アドバイザー」は、冷凍食品業界で働く人や専門家からすれば、「何それ?」だったに違いありません。
冒頭の図は、「独自化」を実現するための4つの要素です。
【1】業界の非常識、異常識に挑戦する
業界には、その業界ならではのしがらみやルールが存在します。なかには、時代錯誤なものも含まれることもあるでしょう。それに対して改善、進化といったチャレンジによって、新たな市場を切り拓くことが狙いです。
【2】同業者や顧客から見て面倒なこと
面倒くさいことはいつの時代も仕事になりやすいです。クリーニング店が存在するのは、自宅でアイロンを上手にかけるのが面倒だからという理屈と同じです。このように、面倒くさいことを愚直にやり続けることで、新たな市場を開拓できます。
【3】社外から儲かる仕組みがわからない
あまりにも簡単なビジネスモデルはすぐに模倣されてしまいます。どこでマネタイズするのかといったキャッシュポイント、どうやって利益を出しているのかといった部分が明らかになっていないことが、独占市場の寿命を長くします。
【4】大企業が入ってこない市場規模
大企業が新規参入するとき、最も重視するのが市場規模です。大企業はそのマーケットでシェアをどれくらい取ることができれば、利益が出るのかを緻密に計算したうえで参入します。したがって、ひとり起業で旗を立てる市場は小さくなければなりません。大手から見たときに魅力的に思われないことも、事業を継続させる秘訣です。
ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』において、「ニッチ戦略は限定された領域で実質的な独占を目指す」と述べています。
小さくても独占できる市場で事業を行うことを「ニッチ戦略」といいますが、この「ニッチ戦略」こそ、ひとり起業にぴったりの戦略です。大きな魚にとっては窮屈で苦しい金魚鉢でも、小さな魚には安全で快適な場所になります。自社に合ったサイズの市場を見出すことが肝心です。
更新:11月21日 00:05