2019年03月29日 公開
2023年03月10日 更新
思考は本来、自由なもの。しかし、多くの人は思考の働きを制限するノートの書き方をしている──。こう指摘するのは、マインドマップの第一人者である内山雅人氏だ。どのように書けば、思考を自由に広げられるのだろうか。頭の中を「見える化」することで思考を整理し、発想を広げるマインドマップのかき方をうかがった。
マインドマップ®は、ひと言でいうと、かけばかくほど思考が活性化されるノート術。従来のノートが、板書を書き写したり、誰かの言葉を記録したりする「レコーディングツール」であるのに対して、マインドマップは、思考を自由に広げる「シンキングツール」なのです。
マインドマップは、今から約40年前、師匠であるトニー・ブザン氏が開発したものです。
その際、参考にしたのが、「天才のノート」でした。レオナルド・ダ・ヴィンチやエジソンなど、天才と呼ばれる人たちのノートを収集して研究したところ、単なる記録ではなく、思考の補助ツールとして使っていることに気づいたのです。
天才と同じような頭の使い方ができるよう、天才のノートの特徴をルール化したものがマインドマップです。
マインドマップの最大の特徴は、「中心から放射状にかかれている」ことです。人間の脳は連想が大好き。
あるテーマについて考えるとき、多くの情報や感性を動員して、放射状に連想を広げます。マインドマップは、脳が行なっている思考の流れをそのまま表現しているのです。
もう一つの特徴は、「脳の第一言語を使って書かれている」ことです。脳の第一言語とは、あるテーマについて考えるとき、五感を通じてまず脳に浮かぶイメージのことです。
例えば、「お正月」という言葉を聞いて、「お餅」がまず頭に浮かんだとします。ただし、同じお餅でも、ある人は「鏡餅」が置かれた和室を思い浮かべ、別の人はお餅の「食感」を想像したかもしれません。あるいは、お餅の「味」が脳裏に浮かんだ人もいるでしょう。
脳内で行なわれる思考は、必ずしも言葉で処理されるわけではなく、ビジュアルや触覚、味覚など、その人が得意とする五感や知性が駆使されています。最初に思い浮かべた情報をそのままかくことで、そこから思考が広がりやすくなるのです。
文章を書き綴る従来型のノートのスタイルは、脳の自然な働きとは異なるので、思考の広がりを狭めてしまうのです。
通常、私たちは次の二つの目的でノートを書いています。一つ目は、見たり聞いたりしたものを記録しておくための「ノートテイキング」。講演やセミナー、会議の内容を記録するような場面です。
二つ目は、すでに記憶にあるものを「見える化」し、思考の整理やアイデア出しに使うための「ノートメイキング」。プレゼン内容を考えたり、ビジョンを策定したり、自分を振り返ったりするような場面です。
マインドマップは、頭を使う場面ならこの二つのどちらにも使うことができ、思考のクオリティを高めることができます。
ノートテイキングでマインドマップを使うメリットは、自分の脳のフィルターを通してかくことで、独自のノートを作れることです。誰かの考え方をただ書き写したノートに比べて、自分なりの理解の仕方で記録しているので、記憶に残りやすく、かつ思い出しやすい。人に内容を伝えるときも、自分の頭で理解したロジックで話すことができるので、説得力が増します。
一方、ノートメイキングでマインドマップを使うメリットは、すでに記憶にある情報を「見える化」し、思考の整理や確認ができることにあります。
思考が整理されていないままかけば、つながりの悪いマインドマップになりますが、自分が思考を整理できていないことに気がつくことができます。次にかくときに注意して、うまくかければ、思考の整理力はアップしていくのです。
また、自分の思考を俯瞰する能力も身につきます。マインドマップは放射状に枝分かれしていくため、要素同士のつながりや関連性を把握しやすいからです。そうすることで、要素同士の意外なつながりに気がついたり、アイデア同士をぶつけたりして、ひらめく力を育てることができます。
もちろん、はじめから効果的なマインドマップの使い方ができる人は、そう多くはありません。ですが、繰り返してかくことでかき方がうまくなれば、思考力を進化させる武器になります。これがマインドマップの大きなメリットなのです。
それでは、マインドマップの具体的なかき方と留意点を押さえておきましょう。
まず、中心にテーマをかきます。文字で書くよりも、頭に思い浮かんだ絵を描くと、脳を刺激して連想が広がりやすくなります。中央に描くテーマを「セントラルイメージ」と呼びます。
次に、セントラルイメージから放射状に枝(ブランチ)を伸ばします。ブランチの上に、セントラルイメージから連想した情報をかきます。さらにブランチを成長させながら、連想する情報をどんどんかき加えていきましょう。
その際、色や絵、記号などといった文字以外の情報をできるだけたくさん使うこと。そのぶん、脳の第一言語にアクセスしやすくなります。
ここで重要なのは、「一つのブランチの上には、一つの単語のみをかく」ことです。一つのブランチに複数の情報を加えてしまうと、その情報のイメージが漠然としてしまい、思考をこれ以上広げることが難しくなってしまうからです。
例えば、部署の問題点についてマインドマップを作成するうちに、「顧客満足度調査」という課題を見つけたとしましょう。
「顧客満足度調査」という言葉を聞いたときに思い浮かべるイメージは人それぞれ。人によっては、顧客にフォーカスして取引先を思い浮かべるかもしれませんし、調査に強く反応して統計を思い浮かべるかもしれません。そうすると、発想が萎んでいってしまいます。
言葉を細分化すれば、「顧客」に対して取引先や店頭、「満足」に対して笑顔やリピート率、「調査」に対して、統計やモニター制度などといった具合に、たくさんの要素を挙げ、発想を広げることができる。より多角的な思考ができるのです。
はじめのうちは、思いつくまま自由にかき出していくとよいでしょう。慣れてきたら、セントラルイメージから伸びるメインブランチに、重要なキーワードを選ぶことを意識してみてください。そして、さらに細分化されていくブランチに、キーワードを構成する情報をかきます。このように、思考の構造化を意識しながらかくことで、より思考が整理されていきます。
マインドマップは、個人で使うだけでなく、チームで使うことでコミュニケーションの向上にも期待できます。チームのゴール設定、企業理念、新商品の開発や販売方法の検討など、さまざまな目標や意思決定を共有できるのです。
チームでの簡単なマインドマップの使い方を紹介しましょう。 一つ目は、会議で各自が同じテーマでマインドマップをかいたあと、その内容を一人ずつ発表し、代表者がホワイトボードを使って1枚のマインドマップにまとめるという方法です。完成したマインドマップを全員で共有することで、共通の文脈が形成される効果があります。
もう一つは、模造紙を真ん中に置いて、全員で1枚のマインドマップを完成させる方法です。他人のアイデアをきっかけに自分の思考を広げられるだけでなく、他人の思考の癖もわかりますので、相互理解に役立ちます。
ビジネスには、どう考えても打開策が浮かばない難問が数多くあります。しかし、マインドマップが、思考のバリアを突き破るきっかけになる。さらに、チームで使えば、自分だけでは気づかなかった考え方を共有できるようになります。ぜひ、実践してみてください。
Mind Map®およびマインドマップ®はBuzan Organisation Limited(1990)の登録商標です
取材・構成前田はるみ
〈『THE21』2019年3月号〉
更新:11月25日 00:05