日本生命を退社後、2008年に、実に74年ぶりとなる独立系の生命保険会社・ライフネット生命保険〔株〕を開業した出口治明氏。社長、会長として同社を10年間率い、業界に新風に送り込んだあと、昨年、世界中から留学生が集う立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任した。そんな出口氏は、「人間にとって、もっとも貴重な資源は、時間だ」と話す。
※本稿は出口治明著『知的生産術』(日本実業出版社)より、一部抜粋し、再編集したものです。
僕は、仕事のスピードを何よりも大切にしています。
若いころは、部下に「難易度の低いレポートなら、遅くとも2、3時間で出すように」と指示していました。「2、3時間で出してこなければ、GA(ジー・エー)だから」と釘を刺しておくと、部下は集中して仕事をします。
「GA」というのは、僕のデタラメな和製英語で、「グレート・アングリー(Gtrat Angry)」、つまり、「激怒」という意味です(笑)。
「仕事が立て込んでいて、2、3時間ではできません」と泣きを入れてくる部下には、
「しかたない。じゃあ、『TMFT(ティー・エム・エフ・ティー)』で」
と言っていました。
「TMFT」も僕の造語。「トゥモロー・モーニング・ファースト・シング(Tomorrow Morning First Thing)」の略です。ようするに、「明日の朝一番」ということです。
レポートが提出され、僕が読み終えるころには、部下はデスクにいません。僕の部下は賢いので、レポートを提出するとすぐに、蜘蛛の子を散らすようにいなくなります。レポートのデキが悪ければ、僕に「GA!」と言われるのがわかっているからです。
あるとき、僕がレポートに「このページはGAやで!」と赤ペンで書き込んで、部下のデスクに戻しておいたことがあります。するとちょうど役員が通りかかって、
「GA? 出口君、これはどういう意味かな?」
と聞かれたので、
「ちょっと不デキなところをチェックしているんです」
と言って、ごまかしたことがありました(笑)。
僕が、「2、3時間でレポートを出してこなければ、GAだから」と部下にスピードを求めたのは、スピードこそが、極めて重要な経営資源だと思っていたからです。
僕は、「小さなことでも、どうするかをすぐに決めて早く行動を起こす」ことがとても大事だと思っています。
意思決定のスピードを上げると、単位時間内にできることが増えていくため、生産性が上がります。判断に迷っている場合は「仮決め」でいいから、とにかくいったん結論を出すことが重要です。
ゼロから考えて、新しい価値を生み出す時代では、猛スピードでラン&テスト、すなわち試行錯誤を繰り返すことが重要です。
何もしないでグズグズしているより、早く決めて実行に移したほうが物事はまちがいなくいい方向に進みます。
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更新:11月23日 00:05