2018年12月13日 公開
2023年03月14日 更新
スターバックスや『THE BODY SHOP』の日本法人など、数々の企業を率いて実績を残してきた岩田松雄氏。華々しい経歴だが、それは常に、大きなストレスやプレッシャーと背中合わせのものだった。岩田氏は、どのようにしてメンタルを健康に保ち、パフォーマンスを高めてきたのだろうか。
プロ経営者として、スターバックス日本法人をはじめ数々の企業を牽引してきた岩田松雄氏。業績不振からの脱却という使命を、その都度、成功させてきた軌跡が、多大なプレッシャーの連続であったことは想像に難くない。
しかし、岩田氏が「心が折れた」経験として記憶しているのは、キャリアの初期、日産自動車在籍時のことだ。
「そのとき私は、社内の留学制度に応募して選抜試験に合格し、留学する資格を得たところでした。次なる目標は、ビジネススクールの入試に合格することです。目指していたのは米国のトップ10に入る難関校でした。
ところが、そのタイミングで、応援してくれていた上司が異動。新しく来た上司は、私の留学に対して好印象を持っていませんでした」
以降、風向きが急に変わった。留学準備に必要な時間を与えてもらえず、業務を大幅に増やされる日々。心の余裕が急激に失われていった。
「大量の仕事に対応しきれず、ミスをして、叱られる。『こんな状態では留学を取り消されるのでは』という被害妄想も出てくる。焦りでTOEFLやGMAT(ビジネススクール入学に必要な試験)の成績も下がっていく。まさに悪循環でした」
食欲不振、不眠に陥り、体重は1カ月で4キロ減少。その頃に撮った写真を見ると、目がうつろで、明らかに異常なのがわかるという。
「ところが、渦中にいると、自分でそれがわからないのです。妻に心療内科の受診を勧められても躊躇して、なかなか行こうとしませんでした。
最終的には、説き伏せられて近所のクリニックに行ったことで、気持ちに区切りがつきました。予約が詰まっていたため、実際に診療を受けることはなかったのですが、足を運んだことで、やっと『自分は病気なのだ』と自覚できたのです」
現状を認識できたことで、対処の道筋も見えてきたと、岩田氏は振り返る。
「まず、優先順位を整理しました。抱えていた問題のうち、最も私が気になっていたのは、仕事のミスで留学が取り消されることでした。ですから、平日は仕事に専念することにしました。
そして、試験勉強は土日を中心にすることにしたのです」
それに伴い、思い切って目標のレベルを下げた。
「トップ10ではなく、トップ30のビジネススクールを目指すことにしました。当時の私のスコアでも、ギリギリ射程距離に入る目標です。大事なのは、難関校に入ることではなく、留学することなのだから、ハードルを下げていい、と考えました」
プレッシャーを軽減させて心の安定を得た岩田氏は、最終的に、当初の第1志望であった、トップ10に入るUCLAに合格した。目標を下げたことが、逆に、良い結果をもたらしたのだ。
「それ以来、数年間は、不安感で心臓がドキドキすることがありましたが、ムリをしないで、その都度、逃げ道を考えるようにしたことで、メンタルのコンディションを大きく崩すことはなくなりました。しかし、心の傷を癒すのには時間がかかりました。
UCLAでの1年目の試験のときも、落第をしてしまうのではないかと、大きな不安を感じたことがありました。経営者になってからも、非常に強いプレッシャーがかかると、動悸が起こることがありました。なんとも言えない焦燥感が、何度か蘇りました」
更新:11月25日 00:05