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岩田松雄・上司との人間関係はゲー厶と考えよう

2014年10月20日 公開
2023年01月12日 更新

岩田松雄(元スターバックスコーヒージャパンCEO)

『THE21』2014年10月号より》

岩田氏「相手を観察して自分に求められていることを探る」

<取材構成:川端隆人/写真撮影:永井浩>

 

信頼を得るために「役割」を意識する

 社長職を歴任し、リーダーシップについての著書で多くのビジネスパーソンの支持を集める岩田氏。実は、職場での人間関係についてはかなり悩んだほうだという。

 「もともと、私は結構人の好き嫌いが激しいほうです。しかも、それが顔に出てしまいます(笑)。どちらかというと人と接するのは疲れるので、ランチは本を持って1人で食べに行きたい、といったタイプなので、人との関係を作ることは、決して最初から得意だったわけではありません」

 

 では、どんな点に気をつけて岩田氏は苦手な人間関係を克服してきたのだろうか。

 「まずは、当たり前のことですが最低限の礼儀や、自分の都合ばかりでなく相手のことを考える姿勢……、こうした基本的なことを大事にする。そのうえで、会社における人間関係では、人にはそれぞれ地位があり、ポジションがある、ということを考えてきました。

 ヒラであろうと部長であろうと社長であろうと、またどんな部署に所属しているとしても、相手の信頼を得ていい関係を築くためには、自分のポジションをまっとうするのが第一歩だと私は思います。

 上司と部下の関係で言えば、部下は上司をフォローするのが当然です。一方、部下を引っ張るのが上司の仕事。相手の信頼を得るには、まずは会社での役割をしっかり果たすことが重要です。

 ところが、最近では社内で上のポストが詰まってしまったりして、それまでろくに部下もいなかった人が50歳になっていきなり課長に……といったことも多くなっています。すると、役割が変わったということを認識できず、ポジションをまっとうできない。結果として人間関係がうまくいかなくなるわけです。

 一番極端な例は、いきなり社長になってしまう場合です。たとえば、事業部長が一足飛びに社長になる。すると、自分がよく知っている事業部門については細かく口を出すのに、わからない部門については役員に丸投げしてしまう。社長の本来の役割は、会社の全体を見て優先順位をつけていくことなのに、その役割を果たせない。これでは社長の仕事を全うできるわけがありません。

 ですから、大切なのは自分のポジションを意識すること。そして『課長としての自分が求められている仕事は何か』というように、自分の役割を考えること。その上で、課長なら課長の役割を演じ切ることだと思います。

 それは結局、まずは目の前の仕事をしっかりやるということでもあります。特に若いうちは、人に評価されたいとか、大きく見せたいなどと考えると背伸びして大きなことを語ってしまいがちです。私も若い頃は、『日産はこうあるべきだ!』といった話をよくしたものです。

 でも、ほんとうに信頼につながるのは目の前の仕事を完璧に仕上げることです。たとえ会議の資料作りでも、きっちりとこなせば『次はこの仕事もやって欲しい』ともう少し次元の高い仕事やチャンスを与えられる。仕事の報酬は仕事です。こうして今の役割をきちんと果たしていくことで、上司や部下に信頼され、人間関係はうまくいくようになるのです」

 

苦手な上司にはマーケティングが有効

 自分の仕事をまっとうすれば、人間関係の土台は作れる。とはいえ、やはり人間同士。相性の問題もある。

 「仕事である以上、顔も見たくないような上司の下で働かなければいけないこともあります。私も、上司との関係が悪くてノイローゼになったこともあります。

 ただ、大事なことは、上司と喧嘩しても絶対に勝てないということ。向こうは人事権をもっているわけですから。

 ここを乗り切るには、上司との関係は一種のゲームだと割り切ったうえで、『マーケティング』をすることです。つまり、その上司は何を望んでいるのかを探って、それに応えてあげること。

 上司にもさまざまなタイプがいます。報告の仕方1つとっても、『いちいちそんな細かいことで来なくていい』という人もいれば、頻繁な報告がないと不安になる人もいる。上司がどういうタイプなのかを知るのがマーケティングです。

 この際、一番のヒントになるのが、その上司がもう1つ上の上司にどう接しているかということ。

 たとえば自分の上司である課長が、その上の部長に対して取っている態度を見れば、課長がどう接して欲しいと望んでいるのかがわかります。課長が部長にいつもゴマをすっているのなら、おそらく課長は自分にも同じことを求めていると考えていいでしょう。

 上司のほんとうに望んでいることは、日頃言っていることと違うこともしばしばあります。『いちいち顔色をうかがわずに自由にやってくれ』と大物ぶっている上司が、上役に対してはイエスマンだったり、というように。上司の本音を読み取るための一番いい情報が、『上司の上司に対する態度』です。

 ちなみに、この『マーケティング』は逆方向にも活用できます。

 社長をしていたとき、とても腰が低くて、何でもやってくれるいい部下がいました。あるとき、彼が部下に接しているところを見たら、傲慢で偉そうな態度を取っている。そのとき気づいたのは、『この人は私から見たら腰の低いいい部下だが、部下に対しては自分がするのと同じようにイエスマンを求めている』ということ。『部下の部下に対する態度』も見ておかないと、人物の評価を誤ることになりかねません。だから360度フィードバックの評価システムはとても合理的です」

 

 こうした「マーケティング」に加えて、ちょっとした意識の持ち方で上司との関係は変わると岩田氏は言う。

 「上司が望んでいることがわかったら、心の中でどう思おうと表面上はそれに応えてあげればいい。魂まで売る必要はなく、『はいはい、こういう人なんだから、こうしてあげれば喜ぶんだ』という、まさにゲームの感覚です。そのためには、幽体離脱して自分と上司の関係を俯瞰で見てみる。すると、気に入らない上司が相手でもとても気が楽になります。この意識を持てないと、自分か潰れてしまうでしょうね。

 もう1つ、相性の悪い上司とやっていく上では『斜めの上司』、違う部署の上司と仲良くしておくことも大事です。困ったときに相談したらいいヒントをくれたり、時には自分の部署に引っ張ってくれることもあるかもしれません」

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