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【対談 河合薫×中原淳】なぜ、「残念な職場」は生まれるのか?

2018年06月01日 公開
2018年06月05日 更新

河合薫(健康社会学者)/中原淳(立教大学教授)

三種の「ジジイ」が会社を破滅させる

このように、保身ばかり考えているリーダーのことを、河合氏は「ジジイ」と呼んでいる。

河合 「君のため」「人のため」などといいながら、実際には、自分の保身ばかり考え、「自分のため」だけに働いている。本気で会社を良くしようなどと思っていなくて、自分の体面を整えるためのことしかしない。残念な人物ですね。

中原 なるほど、企業に限らず、どこの組織にでもいるような気がしますね。

河合 ジジイというと年配の男性だけのように聞こえるかもしれませんが、実際には、そういう性質を持った人のこと。若い人でも女性でもあり得ます。自分の中にも「ジジイ」が少なからずいるので日々闘ってます(笑)。

経営トップや役員は「大ジジイ」だとすると、「小ジジイ」や「中ジジイ」もいるという。

河合 小ジジイは課長クラスの人。中ジジイは部長クラスの人です。いずれにしても、共通するのは、自分の保身が第一で、上の顔色ばかりうかがって、行動していることですね。
小ジジイのモットーは、なんといっても「逆らわない」ことです。上司から見れば、すごく使いやすいので、重宝され、大した実績もあげていないのに出世します。
そして、中ジジイになると、今度は、「危険をおかさない」ことを第一に考えるようになります。定年まで逃げ切ることを考えれば、下手に危険をおかさないほうがいい。もっとも、危険というのは、「会社にとって」というより、「自分にとって」という意味です。たとえば、瀕死の部署を立て直して六百万円の黒字にするなら、AIのようなトップ肝いりの事業で五億円赤字を出すことを選ぶ。そうして、トップの意向を汲んだほうが「安全」というわけです。

中原 そんなことをしていても、日本の大企業はなかなかつぶれない。これが、傷口を広げていくんですよね。

河合 でも、根っこは腐っているので、あるとき、突然バタッと倒れてしまう。「あの大企業が」という企業がつぶれるわけです。

こうした「三種の神器」ならぬ、「三種のジジイ」を見たら、若い人は「こうはなりたくない」と思うだろう。

河合 「管理職になったら、自分が会社を変えてやる!」と元気な人はどの会社にもいます。ところが、管理職に昇進すると、ジジイ化してしまうのです。現場に寄り添っていたはずの人が、その階層ごとの文化に染まってしまう。残念ですけどこれも人間です。

中原 人間は環境に左右されないほど、「確固たる自己」をもっていません。周囲の人間関係などによって、考え方が大きく変わってしまうものです。

河合 私の研究分野も、まさに「環境が人をつくる」ということなので、少しでも環境を変えたいと思っているんですけどね。なかなかジジイの壁は厚いな、と日々感じています。

 

役職定年で「ジジイ」が部下に……!

最近は、役職定年によって、ジジイが部下になることも珍しくなくなった。その対応に悩まされている人は多い、と河合氏。

河合 とくに、女性管理職の場合は、対処にすごく悩んでいるという話をよく聞きます。
役職定年の人たちは「俺たちはもう、どんなに頑張っても、給料一円も上がらないんだぜ」とグチばかり言う。そのくせ、プライドは高いので、女性管理職を「今度女の子が来るんだけどさ」などと女の子扱いをする。多少は手伝ってあげたい気持ちはあるみたいなのですが、「なんで俺が、女の子の部下に」と思うようで、素直に言うことを聞かないようですね。

中原 そういう「働かないオジサン」は、文句がそれだけあるのなら、さっさと、他の場所を探せばいいと思うのですけれどもね。好きになさいな、と言いたい。誰も引き留めていません。「これも宿命だから仕方ない」みたいな感じでおっしゃいますけど、宿命なんてない(笑)。好きになさればいいのです。よく思うのですけれども、この国は「組織にいたくないのに、組織にいつづける人」が多いような気がします。

河合 大体、この手の困った人はちょっとしたエリートなんですよね。役職定年になって会社には居場所がないんですが、「担当部長」などの部下なし管理職の称号をもらっているので、外に出ると「○○会社の部長さん」と呼ばれる。それを捨てる勇気がない。小さなプライドが邪魔するんです。

しかし、ジジイの部下を放置していたら、自分の評価も下がってしまう。どうすればいいのか。

河合 とくに女性管理職向けの話かもしれませんが、私は次の二つのアドバイスをしています。一つは「毎朝、目を見てあいさつをしよう」。もう一つは、「応援団になってもらおう」です。向こうが聞いていなくてもいいから、とにかく、隣に行って「困ったな」などとつぶやこう。「娘だと思わせろ」と言っています。

中原 僕も、働かないおじさんは、「応援団にする」のが良いと思います。嫌いな相手を応援団にしようとするのは、心理的に抵抗感があるかもしれませんが。そこはある程度、「演技」だと思ったほうがいい。マネジメントも「役割演技」です。会社を舞台だと思って、課長なら課長を演じてみるのです。すると、意外とうまくいくものですよ。

河合 演じることは、私も大賛成。そう割り切ることで、かなり救われると思います。

 

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著者紹介

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者

東京大学大学院医学系博士課程修了(Ph.D)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸㈱に入社。気象予報士として、テレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院に進学し、現在に至る産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークし、その数は600人に迫る。長岡技術科学大学、東京大学、早稲田大学などで非常勤講師を歴任。早大感性領域研究所研究員。最新著書『考える力を鍛える「穴あけ」勉強法』(草思社)。『モーニングCROSS』(TOKYO MX)、『情報ライブ ミヤネ屋』(YTV系)にコメンテーターとして出演中。

中原 淳(なかはら・じゅん)

立教大学経営学部教授

1975年、北海道生まれ。東京大学卒業、大阪大学大学院修了、メディア教育開発センター(現・放送大学)助手、米国・MIT客員研究員、東京大学講師、准教授等を経て、2018年4月より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織の人材開発、組織開発について研究している。著書に、『フィードバック入門』『実践!フィードバック』(以上、PHP研究所)など多数。

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