2018年04月12日 公開
2023年03月23日 更新
さて、この「3歩目」ですが、一発必中をめざす必要はありません。私自身、東京都で義務教育初の民間校長になるまでには、いくつかの試行錯誤がありました。むしろ、「こっちの方向かな?」「いや、こっちかもしれない」と、試しに何歩か踏み出してみることで、「ここかな」という自分のカンどころがわかってくるかもしれません。
また、意に沿わない部署に異動になったとか、子供のPTAの役員に選ばれたなどの「偶然」が、自分を思わぬ世界に引き合わせてくれることだってあります。友人に誘われて出た勉強会や趣味の集まりが、新たな扉を開いてくれる可能性もあるでしょう。
私自身の経験から言えるのは、1歩目、2歩目の軸足がしっかり見えているなら、とにかく思いきり「3歩目」を踏み出してみるということ。民間校長として改革に取り組むことは「無謀で」「不利な」挑戦だと言われましたが、そうであればあるほど、世の中の人は応援してくれることも実感しました。 「得をしよう」と思っていたら応援は得られないし、「失敗したくない」と計算し過ぎたら、絶対に跳ぶことはできない。先日「新しい地図」(※編集部注:稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾がSMAP時代のマネジャー・飯島三智氏と共に立ち上げたタレント運営会社CULENによるファンクラブ、サイト)の3人が、ネットで72時間の生番組に挑戦しました。彼らは皆40代。まさに「無謀で」「不利な」勝負だったけれど、世の中の多くの人に応援され、復活を印象づけた。40代のキャリアを考えるうえで、象徴的な出来事に映りました。
キャリアの「3歩目」を踏み出す際に、今いる組織に留まるほうが安全ではないかと考える人もいるかもしれません。果たして本当にそうでしょうか。
規模の大小に関係なく、組織にいることの大きなリスクは「上司」の存在です。サラリーマンである以上、上司が間違いなく幸せの半分のカギを握っていると私は考えています。そして40歳よりも45歳、45歳よりも50歳と、年齢が上がれば上がるほど、リスクはドンドン大きくなります。
若いうちは、たとえ直属の上司と気が合わなくても、異動や組織改革で環境が変われば、新しい上司からチャンスをもらうことができます。しかし、昇進につれて異動できる場所は限られていき、評価を下す上司の顔ぶれもだんだん決まってきます。そして晴れて部長になったとき、常務や専務と合わなければ、「アイツはダメだ」と烙印を押されて「終わり」。一度下された評価は二度と覆らないまま、退職までの長い時間を過ごすことになります。キャリアの「3歩目」も、小さくならざるを得ないでしょう。
そう考えると、「転職」「独立」のリスクと「留まること」のリスクは、45歳以上からは実はほぼ同じと考えてもいいのではないでしょうか。
そうはいっても、3歩目をどう踏み出せばよいのかわからないなら、転職の意志の有無にかかわらず、これまでの自分の「履歴書」を書いてみることを勧めます。
このとき、「新規事業のプロジェクトリーダーを務めた」「営業部の次長に就いた」というように、自分がどんな部署にどんな役職でいたか(=Be)という「位置エネルギー型」の経歴ではなく、「連携不足の解消に組織横断的な役割を買って出た」「不足していた○○の技術を補うために部内に専門部署をつくった」など、自分がどんなことをしてきたか(=Do)という「運動エネルギー型」の実績を書いてみてください。そうすると、今後自分はどこに力を入れるべきか、どの部分をさらに深めればよいか、エネルギーの矢を放つべき方向性が現実感をもって見えてくるでしょう。
その結果が「同じ仕事をもう一度深掘りすること」になっても構いません。大事なのは、自分のキャリアを棚卸しして、不要なもの、必要なものを明確にすることだからです。たとえば営業を一通りやって接待の経験が十分なら、社内接待に時間を使うよりも仕事の専門性を高めるための時間をもったほうがいいとか、法務の仕事をやりたいから専門の勉強をしたいとか、自分のキャリアに肉付けすべきこと、逆に削除すべきことがはっきりわかればいいのです。そうすることで、三角形の頂点、つまり「3歩目」をどこに踏み出すかが、おのずと見えてくるはずです。
《『THE21』2018年1月号より》
更新:11月24日 00:05