2018年01月26日 公開
第158回直木賞候補作。天平の時代、疫病・天然痘が都に蔓延し、無辜の民が次々に苦しみながら死んでゆく。治療を行う「施薬院」で働く名代と、かつては侍医として名を知られたものの、無実の罪で捕えられた諸男。二人の視点から、地獄のような疫病と、それに立ち向かう人々の動乱を描く。
なすすべもないほどの脅威。この時代に蔓延した疫病とはそういうものだ。日本史の教科書にも残る史実であり、この疫病により当時の権力者・藤原四兄弟が命を落としたことなどは知られている。しかし、それもたった数行の記述。その陰で、市井の人々がどう生き、どう死んでいったのかは想像するしかない。
どうしようもない状況の中でこそ、人の本質が見えることがある。この物語にも、自分のなすべきことを見つめて精一杯やり遂げようとする人物も登場すれば、災害に乗じて偽りの神を仕立てて金儲けをたくらむ輩も登場する。そして、その偽りの神にすがってでも家族を助けようと奔走する人たちがいる。それぞれの生きざまに考えさせられるとともに、いつの時代も人間の本質は変わらないのかもしれないと思う。
また、本書では理不尽とも思えるような凄惨な死がたくさん描かれる。顔が原型をとどめないほどに膿疱が広がり、悶え苦しみながら死んでゆく人々。中でもつらいのは、寺院にいる子供たちが病魔に侵されるシーンである。そんなときでもきちんと大人の言うことを聞き従う子供たちの様子を読むと、取りつく人を選ばない病気の理不尽さにやるせない気持ちになる。
読むのがつらくなるような場面も多いが、生と死と、そして与えられた生をどう生きるかの選択など、重いテーマを直球で突きつけられる作品だ。歴史に学ぶというと、現代に名を残す有名な人物の生き方に学ぶと考えがちだが、それだけではない。普通の人たちの人生に思いを馳せてみることで見えてくるものもあると、気づかせてくれる。
執筆:Nao
更新:11月22日 00:05