40代になると、「若い頃より記憶力が衰えた」「もの忘れが激しくなった」という人が多い。しかし、実は「脳は鍛えれば伸び続けるし、記憶に関する細胞も増やすことができる」と説くのは、脳科学者の枝川義邦氏。最新の研究に基づく記憶力の鍛え方についてうかがった。《取材・構成=西澤まどか》
※本稿は月刊誌『THE21』2018年2月号より一部抜粋・編集したものです
「40歳を過ぎてから、もの覚えが悪くなった」――そんな声をよく耳にしますが、実はそうとばかりは言えないことが、最新の研究でわかっています。
かつては、脳の神経細胞は、生まれたときに多くて、その後は減る一方であると言われていました。しかし近年の研究では、神経細胞は大人になっても新しく生まれること、また神経細胞をサポートするグリア細胞は増殖していることが知られています。つまり、脳は何歳になっても「鍛えられる」のです。
とはいえ、「人の名前がすぐに思い出せなくなった」「新しい情報が入ってこなくなった」など、若い頃より記憶力の衰えを実感する人が多いのも事実でしょう。これには二つの理由があります。一つは、「年齢を気にしている」から。そしてもう一つは、「忙しさのために、ワーキングメモリがいっぱいになりやすい」という理由です。
一つ目の「年齢を気にしている」という理由について、ある実験結果をご紹介しましょう。ノースカロライナ州立大学のヘス博士らは、六十歳以上の男女約百人を集めて記憶学習のテストを行ないました。
彼らを二つにグループ分けし、一方には、「年をとると記憶力が衰える」という情報を与えました。もう一つのグループには、「記憶テストの成績に年齢は関係ない」という情報を与えました。
すると驚くべきことに、後者の「記憶力と年齢は関係ない」と教えられたグループのほうが、成績が良かったのです。
このテストから見えてくるのは「思い込み」は現実になる、ということ。あなたが「もう40だから仕方ない」と思い込むことによって、記憶力は低下してしまうのです。
続いてもう一つの、「忙しさ」が記憶にどう影響するかについて説明しましょう。脳の記憶には、三つの段階があります。新しい情報が脳に刻まれることを「記銘」、その情報を脳内に保つことを「保持」、思い起こすことを「想起」と呼びます。
四十代ともなると、役職がついたり部下ができたりと、仕事の忙しさが増し、また家族のことでもいろいろと時間を取られるなど、悩み多き世代です。
忙しくなると、インプットされた情報をとりあえず置いておくための「ワーキングメモリ」が情報過多になります。ワーキングメモリは、いわば「記憶の作業台」です。新しく入って来た情報も、すでに脳内にある情報を引き出して処理する場合も、まずはこの作業台に乗せます。
その際、作業台が情報で溢れていると、新しくものを乗せられません。忙しくて首が回らない人というのは、常に作業台が情報で溢れ返っている状態なのです。これでは新しく記憶することも、記憶を引き出すこともできなくなってしまいます。
この「記憶の作業台」であるワーキングメモリは、すぐに一杯になりやすいので、意図して片づけるようにしたいところ。そのカギを握るのが、脳の「前頭前野」という部分なのです。
更新:11月22日 00:05