2017年09月22日 公開
2017年09月22日 更新
「紀行」をテーマに書評を書いていると言ったところ、知人から本書を勧められた。
書名は知っていたが、恥ずかしながら未読。
「稀に見る傑作」とのことだったので、早速購入してみた。
手に取って概略を見ると、
「太平洋戦争中、徴兵を忌避した青年が、正体を悟られないよう日本全国を逃げ回るように放浪する話」
……うん? なんか思ってた「紀行」と違うな。紀行というか「逃避行」では?
それが読書前の印象だったわけですが、読み始めるとその怒涛のストーリー展開に一気に引き込まれてしまった。
終戦から20年、うだつの上がらない大学職員である主人公・浜田は、それでも安定した生活にそれなりに満足していた。
だが、彼には人に知られるのがはばかられる過去があった。それが「徴兵忌避」。太平洋戦争中、徴兵を逃れるために自宅から逃亡。終戦までの3年間、偽名を使って行商人に姿を変え、日本全国を放浪していたのだ。
物語は大学職員として働く濱田の日常と、戦時中の回想とが入り混じりながら進められる。
逃亡中の話は非常にスリリング。
幾度の危機に見舞われながらも、協力者との出会いもあり、浜田は無事、終戦まで逃げ切ることに成功する。
だが、その代償は大きかった。
息子が徴兵忌避者となったことによる母の自殺と家族の崩壊。
そして、もう戦後20年も経つというのに、いまだに「徴兵忌避者」というレッテルを張られ、白い目で見られる。そして、それは徐々に彼の平穏な人生の歯車を狂わせていく。
自らの正義を貫き通した人間に対して、人は憎悪や軽蔑と憧れが入り混じった、複雑な感情を抱かざるを得ないもの。そんな人間心理が痛いほど感じられる名作だ。
ちなみに、紀行としても面白い。戦時中の日本各地の様子とか、当時、旅をするのがどれだけ大変だったかがわかる。そんな中、主人公は旅先で出会った女性と隠岐に旅行に行ったりしている。……戦後、周囲の人が彼のことをなんとなく許せなかった気持ちがわかるような、そうでもないような……。
執筆:Y村
更新:11月13日 00:05