2017年08月18日 公開
全盲の主人公・村上和久の孫娘は腎臓を患っている。和久はドナーとなることを望んだが、適さないと診断されてしまった。そこで兄の竜彦を頼ると、検査さえ拒絶され、その頑なな態度に疑問を抱く。竜彦は中国残留孤児だったが27年前に永住帰国。その際すでに視力を失っていた和久は、兄の顔を確認していない。27年間兄と信じてきた人物は、実は偽物なのではないか……? 芽生えた疑惑の真相とは。
戦中の過酷な生活が祟って失明した主人公、中国残留孤児の兄、腎臓移植を待つ孫娘など、設定がとても重い。おまけに、主人公と兄や娘との関係性もギスギスした雰囲気で、読み始めはかなり暗い小説だなという第一印象を持った。しかし、次から次に提示される謎に引き込まれ、二転三転するどんでん返しに翻弄され、何度も驚かされるうちにあっという間に読了。しかも、曇天から雷雨に変わり、嵐のあとに青空が見えるように、「暗い小説」と最初に抱いた印象も二転三転していった。
本書の最大の特徴は、全盲の主人公の一人称で書かれているということだ。今何が起きているのか、目の前にいる人物が誰なのか等の情報を、音や匂いや第三者のセリフなど、視覚以外の感覚で感じ取る描写でしか知り得ない。それは作者にとって表現の制約になっているとともに、読者にとっても読み取るうえでの制約になっているはずなのだが、そのハンデが作品のうえではうまく活かされている。
タイトルにあるように、ストーリー上いくつかの「嘘」が出てくる。言葉通り人を欺くための嘘もあるが、相手を思いやった結果の嘘もある。そんな「優しい嘘」もあるのだと、改めて教えられた。
執筆:Nao
更新:11月22日 00:05