2017年08月01日 公開
2023年05月16日 更新
(以下、星野佳路氏談)
現地のスタッフが地域の魅力を通して、自らのおもてなしを発想し、創造していく。これが日本旅館である私たちの強みです。大友さんは、そんな我々の理想形を体現していると思います。最初に配属された「星のや京都」でお茶の文化に触れ、その体験から学んだおもてなしの心が旅館のサービスのヒントになっています。そして今、日本旅館を世界に広げるための拠点として我々が位置づける「星のや東京」のサービスにも生かしてくれています。
私たちは、海外にも通用する都市型日本旅館のサービスのあり方を模索する狙いも込めて、星のや東京を開業しました。日本旅館でありながら、都市を訪れる観光客やビジネス客のニーズにも対応できるようサービスを進化させていく。日本に来たから日本旅館に泊まるのではなく、快適でサービスが素晴らしいから日本旅館に泊まるという市場を作り出したいと思っています。
星のや東京は、玄関で靴を脱ぐ、客室は畳の間といった日本旅館のスタイルを踏襲しながらも、現代ホテルの快適性と機能性を重視した造りが特徴です。開業からまだ一年経ちませんが、お客様の外国人比率は六割を超え、満足度調査での外国からのお客様の満足度も非常に高いものです。海外に通用する日本旅館の形が見えてきた手ごたえがあります。
課題があるとすれば、サービスチームのスタッフに非常に高いレベルの接客スキルが求められることです。地方の温泉旅館のスタッフなら、片言の英語や筆談でも構いませんが、東京では細かな旅のアレンジが必要になってくるため、それに対応できるだけの語学力が必要です。
加えて、星野リゾートでは、スタッフ全員が旅館のすべての業務を身につけることを前提としています。仕事に担当がつくのではなく、お客様に担当がついてサービスを提供してきたのが日本旅館だからです。フロントから客室清掃、レストランまでマルチタスクを実践するなかで、スタッフ自身がおもてなしを進化させることが求められています。
将来的には、海外拠点でも「日本のおもてなし」を提供していきます。目下、この一月に開業した「星のやバリ」で取り組んでいますが、国内よりも難易度の高い挑戦になることは間違いありません。
ところで、日本のおもてなしとはなんでしょうか。たとえば、日本の地方を訪れる人にとって、その地方で体験したいことが明らかなわけではありません。むしろ、迎え入れる側の人が、「この地方に来たらぜひこの料理を食べてほしい」と〝押しつける〟のが日本のおもてなしであり、日本旅館のやり方だったはず。それを海外でも展開すべきだと我々は思っています。
つまり、「バリらしさ」をニューヨークやロンドンの本部で考えるのが西洋ホテル流だとすれば、地域の魅力を一番よく理解している現地スタッフのバリ人が「バリらしさ」を考えるのが日本旅館流。現地スタッフを単なる労働力として考えるのではなく、彼ら自身がサービスのクリエイターになること――これが日本旅館出身のホテル会社としては大事であり、守らなければならないことだと思います。
日本旅館を海外展開する機会は必ずやってくるはずです。会社のミッションに共感してくれている大友さんには、いずれ海外拠点を担える人材になってほしいと思っています。
私は経営者として、現場のスタッフ一人ひとりが主役だと思っています。この連載で彼らが生き生きと仕事をする様子をご紹介いただいたことは、我々にとっても非常に良い機会となりました。ありがとうございました。
《『THE21』2017年7月号より》
『THE21』本誌での本連載は今回で終了となりましたが、オンラインでは今後も、星野リゾート施設からのリポートをお届けします。引き続き、お楽しみください。
更新:11月22日 00:05