2011年10月11日 公開
2024年12月16日 更新
歴史に残る斬新な製品、世界が注目するパフォーマンス。しかも一発屋ではなく、幾度もヒットを連発――。誰も真似できないアイデアを大量に生み出したスティーブ・ジョブズ。彼の発想法には、どんな秘密が隠されているのだろうか。(取材構成:川端隆人)
スティーブ・ジョブズは、Mac、iPod、iPhone、iPadと、歴史に残る斬新な製品を次々と生み出してきました。その発想力の秘密は、誰しも興味のあるところでしょう。
しかし私は、ジョブズの発想力はそれほどでもない......というのはさすがにいい過ぎですが、決して誰にも真似できないようなものではないと考えています。
ジョブズがアップルを設立した当時、コンピュータといえば業務用の大規模なもののことで、個人がコンピュータをもつことは基本的に考えられていませんでした。ごく少数のマニアが、電子部品を買ってきてコンピュータを自作していただけだったのです。
アップルも、当初はそうした少数の顧客を相手にしていたのですが、あるときジョブズはこう考えます。
「コンピュータを組み立てたいと思うオタク1人に対して、そこまではできないけれどもちょっとやってみたいという人は1000人いる」
その発想から生まれたのが、世界ではじめて完成品で売られた一般向けパソコン「アップルⅡ」です。販売台数は500万台に達し、一躍アップルの名を広めることになります。アップルⅡのアイデアを発想できたのは、ジョブズが技術者としては一流でなかったことと大いに関係があるでしょう。
大学を中退したあとの数年間、学内の電子機器のメンテナンスやアタリ社の夜勤エンジニアで食いつないでいたジョブズは、いってみればアルバイトのサービスエンジニア上がり。
アップルの共同設立者であったスティーブ・ウォズニアックのような天才コンピュータ技術者とは、比較にならないレベルです。実際、ジョブズは自分の技術がすごいといったことは一度もありません。個人で特許を取ったこともありません。
しかし、一流の技術者でないゆえの、いってみれば素人の発想こそが成功に導きました。「自分ではすごいコンピュータは組み立てられないから、完成品で買えたらいいな」という顧客の立場からアップルⅡの開発を思いついたのです。
これは、非常に優れた発想です。しかし発想法としては決して珍しいものでないことに気づかれたでしょうか。要するにジョブズは、ユーザー視点で発想したということなのです。
売れる商品を開発するにはユーザー視点が大切、ということはわかりきっています。しかし意外に製品開発の場では、その視点が見失われがちなものです。
よくいわれるのが、開発者の「わかっている症候群」です。開発者は専門家の視点で先端的な機能、自分が便利だと考える機能をどんどん新製品に追加したがる。しかし、どういうわけか顧客満足度はどんどん下がっていく。
技術者が自己満足でつけた多彩な機能は、じつはユーザーにとって不要なもので、ただ操作を面倒にしているだけというわけです。これに対して、ユーザー視点で発想するジョブズは「これはいらない」「ムダだ」といらない機能をどんどんそぎ落としていきます。
たとえば、iPodをつくる際には、電源のオン・オフボタンをなくしています。iPhoneでは、普通の携帯電話にあるようなキーを削りました。iPhone以降、タッチパネルを採用するスマートフォンが当たり前になり、キーが必須だと考えられていた時代は完全に過去になりました。
もちろんジョブズの「削る発想法」は、最近始まったことではなく、古くはiMacを開発したときにフロッピーディスクドライブを廃止しています。当時、ビジネスシーンで当たり前に使われていたフロッピーは、ほどなく廃れてしまいました。
開発者の常識にとらわれず、ユーザーにとって不要なものは平気ではずす。「選択と集中」といってしまえばそれまでですが、どこかジョブズ一流の美学を感じさせる発想ですね。彼はじつにシンプルな言葉で、この美学を表現しています。
「何かに絞り込むということは、イエスではなくノーということだ」
更新:12月31日 00:05