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「危険」を体感する研修とは?大林組のミス防止術

2017年06月22日 公開
2023年04月06日 更新

竹中秀文(大林組建築本部本部長室長)

現場監督が「小心者」であるべき理由

建設現場は常に安全性が求められる厳しい職場だ。出来上がった建物に不具合があってはならないのはもちろんだが、工事中にも一歩間違えば命を落とす危険性があるため、事故を回避して作業を進める必要がある。作業計画を立案し、作業員に目を配り、現場を取り仕切るのが建設会社の現場監督だ。長年にわたり建設現場に立ってきた大林組の竹中秀文氏にお話をうかがった。《取材・構成=林加愛、写真撮影=まるやゆういち》

 

現場監督の掟は「常に小心者であれ」

建設業に携わって30年。数々の建設現場で現場監督を務め、現在は管理部門において事業の戦略策定に携わる大林組の竹中秀文氏が、安全性・正確性を厳しく問われる現場にあって、常に心がけていたのは「小心者であれ」という教えだった。

「建設業における事故は、社会的に甚大な影響を及ぼします。そして、そうした大きなミスは、小さなミスの蓄積によって起こるものです。ですから、現場監督はほんの小さな兆候も見落としてはなりません。どこかに間違いがないか、絶えず考える注意深さ、繊細さが必要なのです。私は若い頃からそう上司に教えられ、部下にもそう伝えてきました。作業員の皆さんにも『ここに気をつけて』『ここは大丈夫?』と事細かに言う、いわゆる転ばぬ先の杖的存在であることを心がけていました」

同時に重要視するのが、事故を防ぐ「仕組みづくり」だ。

「当社では、万一ミスが起こっても、被害を発生させない『フェールセーフ』のしくみを徹底しています。これは、あえて強い言葉で言うと『人を過信しない』『モノを過信しない』という考え方に基づいてなされるものです。
人はミスをするもの、モノは壊れるものです。それを前提として、二重三重の策を取ります。たとえば、誰かが失敗したらその場で誰がどうフォローするのか、モノが壊れたら瞬時に何が代わりになるのか。それらをすべて予知して工事計画を緻密に組み上げることが、欠かせない作業となります」

IoTで危険な場所や重点的に安全管理を行う工程などを共有し、対策を徹底する。
だがそれは、「複雑なマニュアルを作る」ということではない。一方で、「簡素化」も大事なキーワードだという。

「ミスを防ぐ究極の方策は何か。それは、『仕事をしないこと』です。仕事量を少なくすればするほど、ミスの可能性は減るということです。ですから手順はできるだけシンプルにし、介在する人の数を減らし、最短距離でゴールに到達する計画を組む。そのうえで、要所には何重ものフォローを用意する、という形が理想です」

現在積極的に取り組んでいるのは、「人間のミスを機械で未然に防ぐ」方策だ。

「大林組ではあらゆる場面において機械化・自動化による事故予防を推進し技術開発を行っています。クレーン同士の接触を防ぐ停止機能や、危険な場所に足を踏み入れるとその人のアラームが鳴る装置、センサーを装着した体調管理システムなど。今後さらに、AIやIoTの力を借りた事故予防の技術を発展させていきたいと考えています」

すでに実践されているIoTとしては、「e野帳」が挙げられる。現場監督が使う小型ノート「野帳」をデジタル化したこのツールがもっとも活躍するのは、情報共有のときだ。

「一斉メールでテキストも図も写真も送れるので非常に便利です。毎日行なう『作業間連絡調整会議』ではこれを大いに使い、危険な箇所の指摘や、不具合の報告に活用しています」

危うく事故につながりかけた場面など、ミスの情報共有を「社内風土」として浸透させるための工夫もある。

「ミスはともすれば『隠したい』心理を呼び起こすものですが、それはさらなる危険を呼ぶ元です。失敗は、むしろ積極的に活かされるべきものです。そこで、専用のフィードバックシートに書いて共有する仕組みも作っています。ミス発生時に大切なのは、全員がそれを『自分にもありえること』と捉えること。そのうえで自分ならどうするのかの予防策を打つことなのです」

 

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