2017年04月08日 公開
2017年04月09日 更新
たまに大阪駅や京都駅に行くと、ぼんやりと列車の発車案内の電光掲示板に見入ってしまうことがある。関西は在来線特急が比較的多く、行き先も多様で、見ているだけでワクワクしてくるからだ。
それに比べると東京の駅はどこも在来線ばかりで、すっかり素っ気なくなってしまった。新幹線こそ四方に伸びているが、在来線特急はせいぜい踊り子くらい。しおさいは本数が少ないし、そもそも地下ホームからだし……(それは関係ないか)。
でも、かつて最も旅情を感じさせる駅は東京にあった。それが上野駅。数多の演歌に歌われた夜行列車を始め、多彩な特急列車が発着する都内一、いや日本一のターミナルだった。
そんな上野駅の、まさに鉄道黄金時代といえる昭和40年代の様子を描いたのがこの『グランドステーション』。全2巻のコミックスだ。
主人公は公安、つまり駅の警備隊員。公安になったばかりの主人公・樋口と、様々な事情を抱えた人々との交流を描いていく。
たとえばあるとき、認知症の老婆が駅で保護される。名前も出身地もわからない。
ただ、毎日のように上野発の列車を見送っている。ということはかつて、自分も東北から上京して上野駅に着いたのではないか。
樋口たちはなんとか身元を探そうとするが、上野駅から出る列車の数はとにかく膨大。途方にくれる中、老婆のある行動が意外なヒントになって……。
内容はいわゆる「人情もの」とでもいうべきもので、それはそれで面白い。ただ何と言っても、鉄道こそが唯一にして最速の交通手段だった時代の上野駅の様子が旅情を誘う。
今の上野駅はすっかりきれいになったけれど、こうした旅情はあまり感じられなくなってしまった。
ノスタルジーと言ってしまえばそれまでかもしれないが、鉄道ファンはもちろん、旅行好きにはぜひ読んでもらいたい一冊。
担当:Y村
更新:11月23日 00:05