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星野リゾートの現場力(15)星のや富士の「ジビエ料理」

2017年06月01日 公開
2023年05月16日 更新

星野佳路(星野リゾート代表)

(以下、星野佳路氏談)

フラットな組織が現場を活性化させる

五十嵐さんは、これまでさまざまな施設で実践を積んできた経験から、リゾート施設のあり方や会社のあり方、社会に対する問題意識を強く持っていて、よりよく変えていこうとする気概のある人です。そのぶん主義主張がはっきりしていて、相手が誰であろうと自分の言いたいことは主張する。私たちが目指す「フラットな組織」を体現する、星野リゾートらしい社員だと思います。

もちろん、社長の私に対しても遠慮がありません。彼女が課題だと認識する事柄について、たとえば、「子育て中の社員が働きやすい職場になっているか」など、会社の制度についても厳しく追及してきます。私も相手が正しいと思えば聞き入れますし、それは違うと思えば、反論します。

誰に対しても言いたいことが言える環境だからこそ、正しい議論が生まれ、正しい意思決定ができるようになる。それがフラットな組織を目指す狙いであることは、この連載で繰り返し述べてきたとおりです。会社の制度を変えたり、新たに導入したりするときは、彼女の顔が頭に浮かびますよ。「五十嵐さんは何と言うだろうか」って(笑)。

一緒に働くスタッフにも遠慮がないので、周りも大変だと思います。彼女の要求や期待に対して、周りがきちんと応えたり反論したりする能力があれば、うまくいきます。彼女が生み出すほどよい緊張関係が、現場を活性化させるからです。その点、「星のや富士」は明確なコンセプトのもと、実力の備わった施設なので、彼女の存在がすごく生きているのでしょう。

 

施設を進化させるのは現場のスタッフ

日本旅館である「星のや」が、なぜグランピングをテーマに選んだのかというと、富士山麓のこの地域に相応しいテーマだからです。「非日常体験」をコンセプトに掲げる「星のや」では、これまでも竹富島(沖縄県)では琉球の伝統文化、京都では日本文化をテーマに地域の魅力を発信してきました。

富士山麓はもともとキャンプが盛んです。私たちがターゲットとするのは、すでにキャンプを楽しんでいる人よりも、キャンプの良さを理解していながら、さまざまな事情で躊躇している人たち。そういった初心者の人たちにも気軽に参加してもらえるキャンプ体験を提供することが、この地域らしいテーマだと考えています。

地域に合ったテーマを選ぶことで、魅力を進化させ続けることができます。施設はオープンして完成ではなく、その後も現地スタッフの手によって進化し続けていくことが大事です。その点、グランピングはこの地域では発展しやすいテーマです。この三月からは、プロが釣りを教えてくれる「グラマラスフィッシング」も始まります。釣りに興味はあるけど経験がないという人にも、楽しんでもらえる企画だと思いますよ。

五十嵐さんは、次はジビエを地域の課題解決に役立てようとしているようですね。彼女の社会に対する問題意識の高さの表われだと思います。ただ、私自身は、地域全体の社会問題や自然環境の問題を解決できるほど、リゾートの一施設に力はないという考え方です。それよりも、その地域の知名度やブランド力に頼らず自分たちのお客様を集客することが、リゾート施設にできる最大の地域貢献だと思っています。

もちろん、現場のスタッフたちが社会への問題意識を強く意識しながら、この仕事に取り組んでくれるのは大歓迎です。同じような志を持つ事業者が増えていけば、リゾート施設が社会に影響を与えるくらいの力を持ち得ることになる日も、来るかもしれません。

 

《『THE21』2017年5月号より》

著者紹介

星野佳路(ほしの・よしはる)

星野リゾート代表

1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発(現・JALホテルズ)に入社。シカゴにて2年間、新ホテルの開発業務に携わる。89年に帰国後、家業である㈱星野温泉に副社長として入社するも、6カ月で退職。シティバンクに転職し、リゾート企業の債権回収業務に携わったのち、91年、ふたたび㈱星野温泉(現・星野リゾート)へ入社、代表取締役社長に就任。

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