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事業を抱え込むのは経営者の「エゴ」である

2017年02月08日 公開

鷲見貴彦(ベンチャーバンク会長)

 

経営理念の見直しで業績が伸びた!

 

 ――創業の経緯についてもお聞きしたいと思います。船井総研に勤めながら、自分で事業を興そうと思われた理由はなんだったのでしょうか?

鷲見 コンサルタントの仕事に向かなかったんですよ。経営者と何時間も話を合わせるのがストレスでしかありませんでした(笑)。自分で事業をするほうが性に合っているんです。

 ――立て続けに4度も事業に失敗して、ようやく成功したのが『まんが喫茶ゲラゲラ』です。しかし、まんが喫茶事業だけに満足することなく、次々と新規事業を手がけてこられた。なぜなのでしょうか?

鷲見 まんが喫茶が本当にやりたい事業ではなかったからです。当初は自分にビジネスの力がなかったので、そんな自分でも成功させられる事業を探していました。やりたいかどうかではなく、成功できるかどうかを考えていたのです。『まんが喫茶ゲラゲラ』の経営が安定してきてから、それは適任者に任せ、本来、自分が興味・関心のあるビジネスにシフトしていきました。

 ――『まんが喫茶ゲラゲラ』を成功させたことで、他の事業も成功させられる自信がついた?

鷲見 それはなかったですね。ゼロからの起業と同じです。

 ――事業を成功させるコツがつかめたのは、いつ頃ですか?

鷲見 2010年頃、経営理念について改めて考え直してからです。

 当社は当初から多角経営を目指していました。それが若い人たちに魅力的に映るだろうと思っていましたし、「他社との差別化になる」「経営者としても面白い」と思っていたからです。でも、多角化することが世の中に対してどういう意味を持つのかという本質的な部分をあまり考えていませんでした。その部分を考えさせられたのが、ヨガの哲学と出会ったことであり、2009年に役員全員を解任した出来事です。役員たちの目的意識がバラバラになり、一部の役員は会社の私物化や不正までする事態になったので、全役員を解任し、私が1人役員になったことがあるのです。このときに「どんな会社にしたいのか」を改めて考え直しました。

 経営理念が固まると、それをもとに人作りができます。先ほどお話ししたように、人作りは当社の一番の強み。それが、このときにできたわけです。

 ビジネスですから、当然、精神論だけではなく、テクニックも重要です。でも、それはそれほど難しいことではありません。テクニックは他社も簡単に真似できます。真似ができないのは、人作りや組織・風土作りです。

 ――御社の経営理念は、「好き!を仕事に、人生をワクワク生きよう。そして、自分自身と、関わるすべての人を幸せにしよう。」です。

鷲見 要するに、世の中にギブしようということですね。お客様が喜ぶ、感動する、また、お客様の人生が変わるサービスをギブする。素晴らしいものをギブすればリターンがあります。そのリターンで人を採用し、教育して、またサービスをギブする。この繰り返しです。

 ――〔株〕iGENEという教育事業の会社を設立したのは、このサイクルの一環である「教育」を強化するためですか?

鷲見 自画自賛になりますが、非常に完成度の高い教育プログラムを開発したのです。はじめは門外不出にしてグループ内で使おうと思ったのですが、世の中に出して、このプログラムに価値を感じていただける方々に提供したほうがいいと考え直し、iGENEを分社化しました。いろいろな業種の方に教育プログラムを使っていただいて、バリエーションを増やし、さらにレベルを上げていきたいと思っています。

 ――経営理念を考え直したとき、意識した経営者はいましたか?

鷲見 とくにいません。というのも、ヨガの哲学をベースに事業の成長を考えている、私と同じ発想の経営者に出会ったことがないのです。ヨガの哲学とビジネスをどう融合させるかが、今の私のテーマです。

 2005年に『僕の会社に来なさい』という本を出した当時は、邱永漢さんをベンチマークにしていました。邱永漢さんは、ビジネスホテルを経営して成功させると、同じビジネスを続けてホテル王を目指すのではなく、手放して次の事業を始めました。次々と新しい事業を成功させることに生きがいを感じるという部分が自分に似ていると思ったのです。

 さらに前の船井総研にいたときには、船井幸雄さんに影響を受けました。船井さんは「プラス発想」「過去オール善」「感謝」「世のため人のために尽くそう」など素晴らしい考え方に溢れていて、常に意識していました。ただ、「具体的に何をすればいいの?」ということが当時の私にはわかりませんでした。だから、船井幸雄さんが言う目指すべき人間像に自分が近づいている感覚が持てませんでした。今、私は、なりたい自分になるためにやるべきことは瞑想が一番だと思っているので、社員や多くの人に「瞑想をしてください」と伝えています。

 実際に瞑想の効果を実感した人が、私の周りにはたくさんいます。瞑想を通じて人生を大きく変えているのです。自信をもって瞑想をお勧めします(笑)。

 ――最後に、今後の目標があればお教えください。

鷲見 会社を大きくしたいとは思っていますが、金額としていくらといった目標はありません。それよりも、どうしたら経営理念を社員により深く理解してもらえるのかという、効率的な「伝え方」の追求をしたいと思っています。研修だけではなく、日々の運営の中で社員に気づきを与えられる仕組みを開発したいですね。

 

 

他に類を見ないユニークな経営者

 中国哲学や宗教など、古代からの智慧を経営に活かしている経営者は多くいるが、ヨガの哲学をベースにしている経営者は数少ないだろう。しかも、新規事業を生み続けては、軌道に乗ったら分社化し、最終的にはシナジー効果を発揮できる他の事業会社と提携をしてさらなる発展を目指すという、ユニークなビジネスモデルを実践している。あまりに常識から外れているので、話を聞いても戸惑う人も多いかもしれない。

 しかし、「会社はなんのために存在するのか」という部分に注目すれば、違和感なく受け入れられるのではないだろうか。その考え方を実現する手法が、鷲見氏の場合、他に類を見ないものだということだろう。会社やビジネスの意義について改めて考えさせられ、自分の持っている常識を揺さぶられる取材だった。

 

《人物写真撮影:池田真理》

著者紹介

鷲見貴彦(すみ・たかひこ)

〔株〕ベンチャーバンク代表取締役会長

1959年生まれ。岐阜大学教育学部卒業後、名古屋の出版社に入社し、コンピュータ部門に配属。89年、〔株〕船井総合研究所に転職し、経営コンサルタントとして数々の実績を残す。 90年にベンチャーバンクの前身となる〔有〕トータルアクセスカンパニーを設立。94 年に〔株〕船井総合研究所を退社。その後さまざまな新規事業を立ち上げ、2005 年、〔株〕ベンチャーバンクを設立。インキュベーション・カンパニーとして、『LAVA』『FEELCYCLE』『まんが喫茶ゲラゲラ』『養蜂堂』『ゆずりは』『ファーストシップ』『REAL FIT』『Re:Bone』『mana Labo』『泰氣堂』『DanjoBi』『プラチナボディ』『天空の庭 天馬夢』『JUMP ONE』などの事業を創出する。著書に『i人経営 瞑想から生まれた新ビジネスモデル』(日経BP コンサルティング)、『僕の会社にもっと来なさい』(マガジンハウス)などがある。

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