2017年04月01日 公開
2023年05月16日 更新
日本を代表するリゾート運営会社・星野リゾートでは、「遊び」や「楽しみ」の中に仕事のヒントを見つけたり、逆に仕事をきっかけとした趣味を楽しんだりしている社員が多いという。本連載では、そのような「遊びと仕事」の融合の事例を、代表の星野佳路氏のコメントとともに紹介。第13回は、「星のや京都」から、お酒と料理のマリアージュを提案するダイニングのマネージャーをリポート。≪取材・構成=前田はるみ≫
京都嵐山の渓谷に佇む「星のや京都」には、街の喧騒から離れた非日常を求めて国内外から多くの人が訪れる。日本を代表する観光地だけあって、宿泊客の四割弱が海外からだ。
この宿の会席料理ダイニングでマネージャーを務める松本葉子氏は、2009年の開業当時から働くスタッフの一人。いくつかの仕事を経て、星のや京都の開業メンバーに加わった。「ここには自分の活躍の場がある」。そんな予感に導かれたからだ。
地元の日本料理屋の娘として育った。接客の手伝いを通して客と会話するのが好きだった。中学生の時、ドイツ人夫婦がホームステイにやってくると、学校で習ったばかりの英語で話しかけてみた。すると、通じた。その時の感覚が「楽しかった」。社会人になってからは、ワーキングホリデーでニュージーランドに渡り、現地ホテルのレストランで働いた経験もある。
星のや京都は、松本氏がこれまで培った語学とホテル・レストランのサービススキル、日本料理に精通したバックグラウンドを生かせる職場である。
現在はダイニングの責任者としてサービススタッフを束ねるほか、ソムリエの資格を生かし、料理に合わせた飲料の品ぞろえを一任されている。ゲストに喜ばれる料理メニューを料理長と一緒に考えることもある。
「いいお酒を造っているにもかかわらず、あまり知られていない京都近辺の酒蔵のお酒も取りそろえています。『日本のよいもの』をお客さまに伝えていきたいですから」と松本氏。テレビや雑誌で見た話題の酒蔵に自ら出向き、直接取引の交渉をすることも珍しくない。
特に日本料理を楽しみにやってくる海外からのゲストには、日本酒やワインもいろいろ試してもらいたいと、料理と酒のマリアージュ提案にも熱が入る。
「私が提案したマリアージュを気に入った方が、ふたたび星のや京都に宿泊した時、私の顔や名前を覚えてくださっていることもあります。そういうことの繰り返しが楽しいですね」
日本料理を介して、国や文化の異なる人と交わるワクワク感は、子供の頃から少しも色あせていない。加えて今は、培ってきた知識や経験を仕事に生かし、自分たちで現場を動かすダイナミズムも感じている。そんな楽しさが、仕事へのモチベーションを生んでいるようだ。
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星野佳路氏の視点―ー料理を調理師の「聖域」にしない >
更新:11月26日 00:05