2016年09月03日 公開
2023年05月16日 更新
報道ではEU離脱のデメリットばかりが取り沙汰されているが、EU離脱によるメリットも確かに存在すると浜氏は指摘する。
「シティの地盤沈下を懸念する声もありますが、今後はEUのルールに縛られないわけですから、より大胆な金融政策を取ることで、世界中から資本を呼び込むことも可能です。
懸念されている企業誘致にしても、独自の優遇策を設けることができます。そもそも、長年イギリスを拠点にしている企業が、EUを離脱したからといって簡単に別の国に移転するわけにもいきません。本当に企業の国外脱出が起きるかは、誰にもわかりません。
EUは巨大な経済圏ではありますが、世界全体に比べれば小さなブロック経済圏にすぎません。そこを離れることで、より大きなグローバル経済の世界に進出することが可能になるわけです」
ここで疑問なのが、「では、そもそもなぜイギリスは、相性の悪いEUに加盟したのか」ということだ。
「経済統合によって関税が下がり、輸出がしやすくなればいい。経済第一主義のイギリスはあくまで『これならトクかも』と考えて門を叩いてみた。そんなイギリス流を嫌がったフランスのドゴールには、再三門前払いを食らわされました。
ただ、欧州統合はもともと、平和のための共同体形成という理念が先行したものです。大陸欧州的な考え方の中では、どうしても政治が経済に優先する。この色合いが明らかになればなるほど、イギリスは居心地が悪くなる。政治的なレトリックが好きで計画マニアックなEUは、イギリスにとって日増しに窮屈さが強まっていったのです」
そこにターニングポイントが訪れた。それが「難民問題」だ。
「これをきっかけに、今まで感じていた窮屈さへの不満が噴出したわけです。そこで、キャメロン首相も国民投票を公約化せざるを得なくなった。言い換えれば、難民問題はある意味きっかけにすぎなかったわけです」
そもそも、国民投票をやったこと自体を批判的に取り上げる人もいる。
「国の一大事を国民投票で決めようとするからこんなことになる、という議論ですよね。私はむしろ、国の一大事だからこそ国民投票で決めるというのが、正統的であるように思います。そもそもイギリスは、1973年にECに加盟する際にも国民投票を行なっています。確かに国民投票には怖い面がありますが、そもそも、その怖さは、それを悪用しようとする人々の魂胆に由来するのであって、国民に最終的な決断を委ねることが悪いわけではないと思います」
国民投票には法的拘束力はない。結局、イギリスはEU離脱を撤回するのでは、という観測もある。
「それはあり得ないでしょう。拘束力はないとはいえ、国民の半分以上の選択を裏切るようなことをしたら、国民は黙っていません。
ただ、一つだけ可能性があるのは、離脱交渉中にEUが歩み寄り、イギリスにより有利な残留条件を提示してきたときでしょう。そこで改めて国民投票を、というのなら筋が通ります。
これには前例があります。マーストリヒト条約の批准を巡って欧州各国で国民投票が行なわれた際、デンマークでは当初、反対派が勝利を収めたのです。反対の理由は主にユーロの導入でした。ドイツと同じ通貨を共有するなんてありえない、という抵抗が強かったのです。
そこで改めて、『EUの成立は受け入れるが、ユーロは導入しない』という条件で再投票を行なったところ、今度は賛成派が多数に。そのため、デンマークはEUの一員ですが、今でもユーロは導入していません」
今回のイギリスのEU離脱においても、こうした「譲歩」が行なわれる可能性はあるのだろうか。
「難しいでしょうね。EUが一番恐れているのは、離脱の連鎖が起こること。もしここで何らかの譲歩が行なわれ、イギリスが『ごね得』となると、他国も離脱をちらつかせて、より有利な条件を引き出そうとするでしょう。
だからといって締め付けを厳しくすると、それを嫌気して、イギリス同様に離脱する国が出てくるかもしれない。そうでなくても、EUを離脱したイギリスが意外と快適そうにしていたりすると、『離脱したほうが得では?』と思う国が出てくる可能性もあります。
どんな理由にせよ、離脱する国が1カ国でも出ると、ドミノ倒しのように他国が追随する危険性がある。その点、イギリスよりもむしろ、EUのほうがよほど大変な状況を迎えていると言えます」
更新:11月22日 00:05