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40代からの「バーチャル・カンパニー」設立のススメ

2016年09月09日 公開
2016年09月09日 更新

柳川範之(東京大学大学院経済学研究科教授)

 

まず、始めるべきは「スキルの棚卸し」

 では、「準備」とは具体的に何をすればいいのか? 柳川氏は、まずは「考えること」だけを始めればいいという。

「すぐに会社を辞めるとか、転職活動を始めるとかということでは、もちろんありません。まずやるべきことは、自分の持っている『スキルの棚卸し』をすること。自分はどんなスキルを持っていて、社外でも通用するのかどうか。それを客観的に整理することが一番大切です。

 40代まで仕事をしてきたビジネスマンなら、ほとんどの人はそれなりのスキルや技術を持っているはずです。ただ、それが社外でどう活かせるのか考えたことがなく、整理できていないのが問題。だから、まずは棚卸しをするべきなのです」

 とはいえ、自分のスキルを客観的に評価するのは難しいものだ。

「そのためには、まず、頭の中でシミュレーションをしてみるといいでしょう。たとえば営業マンなら、『うちはメーカーだけど、サービス業の会社に移ったとしたら、どんな営業ができるだろうか?』と想像してみるのです。このような意識を持つだけでも、気がつくことが多くあるはずです」

 もちろん、実際に他の人の視点を借りることも有効だ。

「社外の仲間、たとえば学生時代の同級生と話す場を持つ。そして、『相手が自分の会社に入ってきたら何ができるだろうか?』『何が足りないだろうか?』を話しあうのです。飲み会やSNSでのやり取りといった場で、気軽にやればいいと思います」

 

遊び感覚で自分のキャリアを見直そう

 さらに、より明確に、しかも楽しく自分のスキルを見極める方法として柳川氏が勧めるのが「バーチャル・カンパニー」を作ることだ。

「意見交換できる仲間ができたら、今度はその仲間で架空の会社を作ってみる。それがバーチャル・カンパニーです。『自分たちで会社をやるとしたらどんな事業をするか?』『自分はどの業務を担当するか?』『他に必要な人材はいるか?』……といったことを、みんなで考えるのです。

 本当にビジネスをやるわけではないので、事業内容は夢のような絵空事でもかまいません。ただし、具体的に想像すること。『経理は誰がやる?』『この事業内容だと英文の契約書を作れる人が必要だな』などと具体的に想像を広げていくことで、自分にはどんなスキルがあり、どんなスキルが欠けているのかが、明確に見えてきます」

 ポイントは、日々の業務にまで落とし込んで、「自分にはどこまでできるか?」を考えることだ。

「ここまでやると、自分が本当に持っていると言えるスキルは何か、欠けている能力は何かがわかります。

 また、このレベルまでスキルを棚卸しできていれば、本当に転職や再就職をすることになっても、いま勤めている会社の中で自分の仕事の幅を広げるためにも、役に立ちます」

 この方法なら費用もかからない。仕事の気晴らしも兼ねて、寝る前の5分間だけでもいいので、夢の会社を想像すればいい。

「これから先、ビジネス環境がどう変化するかを正確に予測することはできません。ですから、『このスキルを身につけておけば間違いない』と言えるスキルはない。強いて挙げれば、『環境が変わったときに、その新しい環境に対応した新しいスキルを身につけられる能力』でしょう。身につけるべきは、個別のスキルではなく、環境の変化に対応できる能力なのです。

 この能力を鍛えるうえでも、自分のスキルを客観的に捉える習慣を持つことが効果的です。いざ環境が変わったとき、自分に足りていないスキルを明確に把握して、『じゃあ、それを勉強しよう』という発想ができるようになりますから。

 まだ切羽詰まっていない40代のうちに、遊び感覚で楽しく想像力を働かせて、環境の変化に対応する訓練をしておくといいと思います」

 

《取材・構成:川端隆人 写真撮影:長谷川博一》
《『THE21』2016年10月号より》

著者紹介

柳川範之(やながわ・のりゆき)

東京大学大学院経済学研究科教授

1963年、埼玉県生まれ。83年、大学入学資格検定試験合格。88年、慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。93年、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。93年、慶應義塾大学経済学部専任講師。96年、東京大学大学院経済学研究科助教授。2007年、制度変更により同准教授。11年より現職。『40歳からの会社に頼らない働き方』(ちくま新書)など著書多数。

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