2016年12月08日 公開
2023年05月16日 更新
新日本プロレスをV字回復させた「100年に一人の逸材」・棚橋弘至。何事にも全力で組織をも変えた、その生き様は従来のプロレスファンのみならず、さまざまな人から支持されている。この企画では読者の皆さんからお寄せいただいたお悩みに、棚橋選手がお答えする。《取材・構成=村上敬、写真撮影=永井浩》
Q1 仕事でなかなか成果が出なくて悩んでいます。後輩に成果で負けてしまい、焦りもあります。頑張ってもうまくいかないとき、気持ちを切り替えるにはどうしたらいいですか。また、人と比べて焦ってしまう気持ちをどうしたら変えられますか。
優秀な後輩を持って焦る気持ち、よくわかります。新日本プロレスではオカダ・カズチカが僕より若い年齢でIWGPのチャンピオンになったし、オカダを倒してベルトを取った内藤哲也も非常に若い。若い世代にトップの座を奪われて、正直、僕の心中も穏やかではありません。
ただ、ここで焦ってはダメです。昔、ある先輩から「閑に耐える」という言葉を教えてもらいました。レスラーにケガはつきもので、どうしてもしばらく試合に出られないことがあります。そのときに焦ってオーバーワークすると、かえって治りが遅くなるおそれがあります。だから焦らずに、活躍できる時が来るのを辛抱強く待て、というわけです。
後輩に追い抜かれたときも同じじゃないでしょうか。下に抜かれたということは、いまは自分に風が吹いていないということ。いまそのことに抗うのではなく、風向きが変わるまでじっくり待つべきです。
大切なのは、風を待つあいだの過ごし方です。人には得意分野と苦手分野がありますが、待っているあいだは自分の苦手なものを無理に伸ばすより、得意なものを磨いたほうがいいです。
長所を伸ばすか、短所を克服するか。この問題は、今の自分やまわりの実力によって答えが変わります。一般論として、レベルが低いときは、短所を克服したほうが効率的に能力を上げることができます。たとえばテストを想像してみてください。点数が30点の人はちょっと勉強しただけで六十点まで上がるかもしれませんが、点数がすでに90点ある人は、同じだけ努力してもおそらくほとんど点数が上がらないはず。それなら他の教科で苦手なものを勉強したほうが総合点を上げられます。
ただ、こうした戦略が通用するのは素人の世界です。プロはみんな、プロとして必要な最低限のレベルに達しています。点数でいえば、みんな不得意なものでも80点レベルにはあります。
そうなると、自分の長所を磨くことでしか他のプロには勝てません。つまり90点を百点に、そして100点を120点に伸ばして、自分の得意なフィールドに相手を引きずり込む戦略が必要なのです。
たとえば、オカダは僕より体格が良く、運動能力が優れています。それを練習でカバーして追いつこうとするのは難しい。それよりも僕の武器であるパワーを磨いたり、肉体美で勝ってお客さんを魅了し、味方につけたほうがいい。
もちろん相手も自分の得意分野で戦いたいと思っているので、試合の流れがどうなるのかは誰にもわかりません。しかし、自分の武器が生きる瞬間はいつか必ずやってきます。その瞬間がやってくることこそが「風が吹くこと」であり、その瞬間で最大限の実力を発揮するために、今はひたすら爪を研ぐべきなのです。
会社の仕事も、きっと同じです。後輩に追い抜かれたのは、おそらく相談者より後輩のほうが優れていた点があったからでしょう。しかし、ビジネスマンとして必要最低限のレベルに達しているならば、そこは気にしなくていいでしょう。
むしろ、今自信のあるスキルを徹底的に磨いてチャンスを待つ。それがライバルに勝つコツです。
更新:11月23日 00:05