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「資格を取ると貧乏になる?」は本当か?

2016年08月10日 公開
2023年05月16日 更新

佐藤敦規(FP・社会保険労務士)

「社労士は食えない」は本当か?

「資格を取ると貧乏になる」というタイトルの本もあるように、今、資格の世界が変わりつつある。合格者が増えた結果、せっかく取った資格で稼ぐことができず、むしろ受験費用の分だけ持ち出しになってしまうというのだ。
それは本当なのか。数ある資格の中でも特に「割に合わない」と言われることが多い社会保険労務士について、自身も社会保険労務士として活躍する佐藤敦規氏にうかがった。

 

合格者は30~40人に1人の「狭き門」

夏がくるたびに思い出すことがある。社会保険労務士の試験場の光景だ。

記録的な猛暑と言われた2010年の夏、私はお台場の東京ビッグサイトにいた。広いフロアに殺風景な長机が並んでおり、数百人を超える受験生が鉛筆を走らせている。配られた問題冊子は60ページ以上もあり、日本語なのによく意味を理解できなかった。試験が終了すると泣き崩れる人も。外に出ると西日が眩しかった。放心状態の人々が夢遊病者のように駅へ向かっていた。

社会保険労務士(社労士)とは、労働関連の法律に基づく書類の作成代行等を行ない、企業の労務管理や社会保険に関する相談を行なう人である。会社組織でいえば、総務や人事の部門が該当する。試験の内容は労働基準法や健康保険法など労働法関連と社会保険に関する法律分野だ。試験時間は5時間弱。午前から夕方まで1日がかりで行なわれるヘビーなもの。しかも、昨年の合格率は2.6%(合格者1,051人・受験申込み者52,612人)という狭き門だ。

受験者は総務・人事部門に所属している人が多いが、私がこの試験に合格したときは、印刷会社の制作部署で複合機などのマニュアルを作るディレクターをしていた。なぜ畑違いの分野の試験に受験しようとしたのか? 聞かれるたびに「年金制度の知識を身につけたかったから」ともっともらしいことを答えている。本当の動機は、他者に「よくやった。すごいな」と言わせたいという“承認要求”があったのかもしれない。

 

難易度のわりに評価が低い?

3年間の学習を経てやっとこの難関試験に合格したわけだが、周囲からの反応は素っ気ないものであった。社会保険労務士の資格そのものの知名度が低いからである。TOEICを受験して700点台を超えるとか簿記検定の2級に合格したほうがインパクトがあったのかもしれない。

私は過去にTOEICの点数を600点前後から150点くらいアップさせたことがあるが、かかった時間は1年ほどで、受験料とテキスト代などを含めての費用は約10万円で済んだ。一方、社会保険労務士試験合格のために使ったのは、100万円の費用と2000時間という時間。実に10倍ものお金と時間を費やしたわけだ。

個人の適性や経歴などにもよるが、社会保険労務士試験は簿記2級やTOEIC700点より遙かに難しく、TOEIC900点や簿記1級と並ぶ難易度とも言われている。司法書士試験や税理士試験よりはやさしいが、中小企業診断士と並んでサラリーマンが会社を辞めずに挑戦できる一番難しい資格試験だと言う人もいる。

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著者紹介

佐藤敦規(さとう・あつのり)

FP・社会保険労務士

1964年東京生まれ。中央大学卒業後、パソコン関連誌の編集に携わる。30代中盤からは印刷会社に勤務し、テクニカルライターとして家電製品からシステム関連まで100種類以上の取扱説明書を作成。2年前よりFP・社会保険労務士に転向。のべ700人以上のライフコンサルタントを行っている。著書に『税理士ツチヤの相続事件簿』(星雲社)などがある。

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