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オイルマネーに浴さず、原油に浸かる「石油の都」(アゼルバイジャン)

2016年08月04日 公開
2017年10月03日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(12)石澤義裕(デザイナー)

オイルバブルが咲き乱れる国

日銭を稼ぎながら世界を旅する、ノマド・トラベラーです。
人様に、夢のような生活ですねと言われ続けて、11年と少々。
命運が尽きるか、収入が途絶えるか、はたまた車がお釈迦になるまでに桃源郷にたどり着くべく、ハンドルを握っています。

トルコのクーデターをイスタンブールで迎え、銃声音さめやらぬ熱気のなか、執筆中です。

 

あのザハ氏の建物も? オイルで潤う政府

およそ100年前、世界の原油の半分を生産していたのが、知る人ぞ少ない古代都市バクー。アゼルバイジャンの首都です。

天然資源にべったりともたれかかった依存体質で、輸出の9割以上が原油・石油製品・天然ガス。原油の生産量は、1日90万バレル。1バレルを90USDで見積もったバブル時の売り上げは、1日で81億円。

天文学的暴利に労働意欲が削がれますが、パイプラインを引きまくっているので、そもそも労働者は不要なのです。オイルマネーは民間に流れず、富官貧民、主権在官のアゼルバイジャンです。

掘って蛇口を捻るだけで湧き出るお金を国民にバラまけばサウジアラビア的ですが、旧ソ連諸国で初めて大統領を世襲したアリエフ一家は、箱もの行政に走ります。

芝生の真ん中に横たわっているなんとも名状しがたい形状の建築物は、あのザハ・ハディド女氏の設計。湯水のようにお金を遣った感が滲み出た、秀逸な作品です。

中心街にそびえるひときわ目をひく3棟のビルは、1万枚のLEDパネルを貼りつけたモニター式外装。夜ともなるとLEDが妖しくきらめき、天をも焦がさんばかりに炎を映し出す、バブルの象徴。気品のない夜景です。


バレエを踊る美人たち。背後はザハ・ハディド女氏の作品。

 

「千メートルのビル」「四十の人工島」……まさにバブルの象徴

今どき大きさを競い合う時代でもありませんが、カジノで一晩500万USD負けたほどの剛毅な大統領は、世界一高いビルを目指します。

その高さ、1050メートル。

お値段、2200億円。

末恐ろしい金額ですが、あのザハ・ハディド女氏による幻の新国立競技場が2350億円ですから、日本の与党なら想定外でも予算内です。

実はこの運動場より安い世界一高いビルは、某プロジェクトの単なる人寄せパンダでした。
主役は、カスピ海を埋め立てる数々の人工島。その数、41。それらの島々を105の橋で結び、ついでにF1コースをトッピングした大風呂敷都市計画だったのです。

ご予算、11兆円。

ご本尊を拝みたく、ツーリストインフォメーションで(埋め立て地の)住所を尋ねましたが、誰ひとりこのバベルの塔計画を知りません。原油価格が半値に下がった昨今、蜃気楼すら拝めぬ摩天楼に潰えたのかもしれません。

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著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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