2016年07月01日 公開
2016年07月01日 更新
イラク戦争に4度にわたって従軍し、狙撃によって殺害した人数は米軍史上最多の160人。「伝説のスナイパー」クリス・カイル氏の自伝です。日本では昨年公開されたクリント・イーストウッド監督の映画『アメリカン・スナイパー』の原作に当たりますが、映画ではいくらか脚色が施されています(たとえば、ムスタファという敵側の凄腕スナイパーの設定など)。
米国では大きな話題になったそうで、原作は大ベストセラーになり、映画は『プライベート・ライアン』(スティーヴン・スピルバーグ監督/1998)を抜いて戦争映画史上最高の興行収入を記録したということです。
確かに原作も映画も非常に興味深い。大ヒットも納得です。ただ、私が両者から受けた印象はずいぶんと違いました。
先に映画を観たのですが、「これは戦争を美化しているのか? それとも反戦映画なのか?」という議論が起こったように、どちらとも言えない内容。どちらとも言えないように配慮して作ったのか、カイル氏をあくまで客観的に描いています。
対して、原作のほうは自伝なので、カイル氏の主観で書かれています。彼の主観からすれば、戦場で戦うのはごく自然なこと。戦争そのものがどうこうという議論の土俵とは別のところにいるように感じます。「俺はこうしてきた。何が悪い?」くらい開けっぴろげに率直に書いているような印象で、それが興味深い。
イラク戦争に対するスタンスに関わらず、その現場にいた一人の記録として、読んでおいて損はない本ではないでしょうか。
執筆:S.K(「人文・社会」担当)
更新:11月23日 00:05