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法律のプロが教える「問題発見力」の磨き方

2016年08月12日 公開
2023年01月31日 更新

伊藤真(弁護士/伊藤塾塾長)

「何が問題か」よりも「なぜ問題か」を意識しよう

 

本質的な問題と違う部分に時間を費やしてしまった、という経験がある人は多いのではないか。思考の最初の段階となるのが、「何を考えるのか」つまり「問題点」を見誤らないことだ。常に論点を鋭く見極める法律の専門家に、そのための方法論をうかがった。《取材・構成=川端隆人》

 

「ものさし」がなければ何も測れない

思考の最初のプロセスである問題発見。そこで、問題の本質を見誤ってしまい、本当に解決すべき問題を発見できない――そんな悩みがあるとしたら、まずは「問題とは何か」に立ち戻って考えてみるべきです。

問題とは、あるべき姿と現状のズレのことです。このズレを埋め、現状をあるべき姿に一致させることが、問題解決です。そう考えると、問題発見に必要なものが見えてきます。まずはあるべき姿を明確に意識しないと、問題を発見することはできません。

あるべき姿=理想を認識するということは、問題発見の「ものさし」を手に入れるということです。しかし、気をつけなくてはいけないのは、ものさしが自分だけの尺度であってはいけない、ということ。

たとえば、「店舗は外部の人の目に触れない場所も美しく整理整頓されているべき」というあるべき姿をものさしにして、「最近バックヤードが散らかっている」という現状を問題だと「発見」したとします。しかし、他の人からは「それのどこが問題なの?」「バックヤードの美観なんてどうでもいいだろう」と言われてしまうこともあります。

つまり、自分でいくらあるべき姿=理想を認識したつもりでも、ともに仕事をするチームのメンバーと共有できていなくては、一人よがりのものさしにすぎません。自分ではチームとして、会社としての問題だと思っていることが、実は個人的な思い入れの問題にすぎないことがあるのです。これでは、いくら問題を発見しても誰も解決のために協力してはくれません。
あるべき姿は、一緒に仕事をする人たちと共有されたものでなくてはいけないのです。

そこで、企業のミッション、バリュー、ビジョンなどにさかのぼって、みんなで共有できるものさし=あるべき姿を見つける必要があります。売上第一なのか、安全第一なのか、といった行動基準も手がかりになるでしょう。

よく、「自分は問題を正しく把握しているのだが、上司の認識がズレていて……」「問題を発見しても、周囲が解決に協力してくれない」と言う人がいます。そういう人は、問題発見のものさしを相手と共有できているか、つまり自分の仕事のあるべき姿をチーム内、社内、取引先などと共有できているかを振り返ってみてください。

 

迷走するのは「なぜ」がバラバラだから

 

問題発見において、もうひとつ、見逃されがちなことがあります。それは「なぜ」です。「何が問題なのか」は見つけられても、「なぜ問題なのか」を意識しない人が多いのです。

「問題だと思うから解決しましょう」と言うだけでは、周囲の人たちと解決への意識を共有することができません。現象としてはひとつの問題でも、「なぜ」の捉え方によって、解決策が違ってくることもあります。つまり、「なぜ」をはっきりさせないと見当違いな「解決」のために無駄な時間を使ったり、チームのメンバーが目指す「解決」がバラバラで混乱したり、といったことになりかねません。「なぜ問題なのか」もはっきりと認識し、説明できる必要があるのです。

さらに、問題の重要度、優先度も見逃してはいけません。問題はつねに複数あるもの。自分の発見した問題にこだわってしまいがちですが、他の人がより重要な問題を発見した場合にはその解決を優先するべきです。そのために、組織全体としてのパフォーマンスの観点から優先度の高い問題を見極める必要がある。ここまで「発見」できてはじめて、問題発見力があるといえるのです。

 

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著者紹介

伊藤真(いとう・まこと)

弁護士/伊藤塾塾長/日弁連憲法問題対策本部副本部長

1958年、東京都生まれ。81年、東京大学法学部在学中に司法試験に合格。82年、大学卒業後、司法修習を経て弁護士登録。95年、「伊藤真の司法試験塾(現 伊藤塾)」を設立。2009年、「一人一票実現国民会議」の発起人となり活動している。日本国憲法の理念を伝える伝道師として、講演・執筆活動を精力的に行なう。著書は多数あり、中でも『伊藤真 試験対策講座』シリーズ(弘文堂)は、法律を勉強する多くの人に広く読まれている。

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