2016年06月25日 公開
――お話に出たフェイスブック社もエバーノート社もシリコンバレーのベンチャー企業です。寺田社長は三井物産時代にシリコンバレーで勤務されたことがありますが、その経験は影響していますか?
寺田 「シリコンバレーで刺激を受けて起業した」というストーリーだとウケやすいのかもしれませんが、そういうわけではありません。小学生くらいのときから、「起業したい」というより、「起業する」と思っていました。戦国時代の本を読んで「俺も天下を獲りたい!」と思うちょっとイタい感じの少年で(笑)、周りを見ると父が起業していたので、「現代で天下を獲る手段はこういうこと(ビジネス)なんだな」と単純に思ったんですね。自分にとっては自然な流れで、起業するのが特別なことだとは思っていませんでした。
ただ、シリコンバレーでひたすらベンチャー企業を回ったことで、「ビジョンやコンセプトで会社をドライブしていく」ということを体感できたことは良かったと思います。シリコンバレーにもいろいろな会社がありますが、基本的には「世界をどう変えられるのか」から考えているんです。5人の会社でも「私たちは世界をどのように変えようとしているのか」というプレゼンをする。そこで、「じゃあ商品を見せてくれ」と言うと、「まだない」と答える。それが普通です。これは日本とはだいぶん違うなと思いました。
ひと口に起業すると言ってもさまざまな角度があるということにはっきりと気がついたのは、実際に起業してからです。偉大な会社を作ることをモチベーションにしている「経営者タイプ」の人もいれば、偉大な事業を作ることをモチベーションにしている「事業家タイプ」の人もいる。経営者タイプにとっては、事業は手段。逆に、事業家タイプにとっては、事業の利益をいかに大きくするかが重要であって、会社が大きくなるのは結果にしかすぎないわけです。1人の人間の中に両者が共存していますが、両者は明確に違う。
僕の場合は、実現したいビジョンがあって、そのためには事業をしなければならないし、事業をするためには良い会社と優秀な人材がなければならないし、と考えるタイプ。だから、「ビジョンで会社をドライブしていく」というスタイルが合っているのだと思います。
――ちなみに、シリコンバレーでは名刺を交換する文化はあるのでしょうか?
寺田 あまりないですね。でも、むしろ米国西海岸が異例なのではないでしょうか。世界中で見ると、名刺管理という問題を抱えて、その解決を必要としている人は億単位でいると思います。
また、たとえばEightを使えば、初めて会った人とスマホ同士で名刺のデータを交換することで、前職の情報などまで伝えることができます。すると、その出会いの意味は、紙の名刺を交換するよりも高くなる。紙の名刺は使わないという人たちも、そうした出会いには価値を認めるかもしれません。そうなれば本望です。
――海外展開も進めている?
寺田 現状では、シンガポールのマーケットで英語版のSansanの展開にリソースを投入しています。
――最後に、どのような将来像をどのように描いているのか、お教えください。
寺田 今、スマホを使われていますか?
――はい。
寺田 ですよね。ガラケーだったら、「なんでガラケーなんですか?」って聞かれるでしょう。でも5年前だったら、スマホを使っていると「なんでスマホにしたんですか?」と聞かれました。気がついたら、世の中の人たちの質問の方向が逆になっているんです。
こういう変化は、意外といろいろなところで起こっていると思います。名刺でも「不可逆な当たり前」を生み出せれば、同様なことが起こるでしょう。Sansanが当たり前になって、若者が「名刺って昔は紙のまま机の中に入れてたんですか? それでどうやって営業してたんですか?」と驚く世の中。あるいは、Eightが当たり前になって、「名刺って紙だったんですか? それで名刺入れなんていうモノがあったんだ!」と驚く世の中。そういうものを思い描いています。
《写真撮影:まるやゆういち》
更新:11月25日 00:05