2016年07月25日 公開
――日本と米国では、組織マネジメントのスタイルに違いはありますか?
山本 まったく違います。仕事についての考え方が、日本人と米国人では真逆だからです。日本では「社員第一主義」で経営していますが、米国では成果主義に近い考え方で経営しています。人事交流も、年2回の全社ミーティングに参加してもらう以外はしていません。
米国で、日本から来られた方に向けてお話しをする機会がよくあるのですが、「日本での経営スタイルは前世のことだったと思う」とお話ししています(笑)。それくらい大きく切り替えています。
――日本での「社員第一主義」は、「日本一社員満足度が高い会社」に2年連続で選ばれたことがあるほどの徹底ぶりですね。
山本 私が「社員第一主義」になったのは、創業後すぐに、社員がどんどん辞めていったからです。体育会系マネジメントだったのがいけなかったんですね。そこで、1年間で1,000人以上の経営者に話を聞きに行ったり、経営の勉強をしに行ったりして、「良い経営者は社員を大切にしている」ということに気がつきました。そして、180度、真逆の経営スタイルに変えたのです。
「ChatWorkさんは社内のコミュニケーションもチャットでする、冷たい会社なんでしょ?」と言われることがありますけれども(笑)、そんなことはありません。確かに仕事の話はチャットでしていますが、実はアナログのコミュニケーションを重視しています。上司とランチを一緒に食べるときにはランチ代を支給したり、飲み会の費用を1人5,000円まで支給したりする制度がありますし、実家が遠くてなかなか帰省できない社員には片道ぶんの交通費を支給する「ゴーホーム制度」というものもあります。こうした取り組みによって、社員満足度が高くなっています。
――自分の経営スタイルを180度変えるというのは、なかなかできない人もいると思いますが。
山本 そのときの私は経営者として真っ白の状態だったからできたのだと思います。我流の経営スタイルが身についてしまっていたら難しかったでしょう。
経営理念の大切さも、1,000人の経営者にお会いして気がつきました。IT企業は、往々にして理念やビジョン、経営方針といったものを後回しにして、目の前の利益になりそうなものに飛びつくのですが、それではいけない。経営理念が確立してから、ブレることがまったくなくなりました。
――御社の経営理念とは、どういうものでしょうか?
山本 「Make Happiness」です。「ITを通して幸せを創りだす」ということ。毎日唱和しなくても、一度聞いたら覚えられるものにしました。
では、「幸せ」とは何か? それは、「経済的豊かさ」「時間的ゆとり」「円満な人間関係」のいずれも欠けていないこと。この三つすべてを満たしている状態を、当社は、お客様にも、社員にも提供していきます。これに当てはまらないことは、どんなに儲かることであってもやらない。これが当社の軸です。
――最後に、これから御社が目指されるところをお教えください。
山本 先ほど少し触れたように、今は上場を目指しています。チャットワークというサービスはインフラになりつつありますから、いつまでも私一人で経営判断をしていていいものではないということと、社会的な信用を得るため、というのが理由です。
さらに長期的な目標としては、日本企業のグローバル化の役に立ちたいと思っています。自社のことで精一杯なので具体的な支援事業をするつもりはありませんが(笑)、シリコンバレーで得た情報や知見を広くシェアして、当社のあとに続く会社に役立てていただきたい。
以前、日本の方によく言っていたのは、「日本で成功しても学生野球のレベル。メジャーリーグでは通用しない」ということ。でも今は、「日本で成功しても空手のチャンピオンみたいなもの。銃を持った相手には通用しない」と言っています。つまり、日本企業は「武器」を持っていない。「武器」というのは、たとえば、シリコンバレーにたくさんある、技術を持ったベンチャー企業。日本企業はそうした「武器」にようやく気がつき始めたばかりで、上手な「使い方」はまだあまり理解していません。そういう日本企業に、当社の知見を役立てていただきたいと思っています。
《写真撮影:まるやゆういち》
更新:11月22日 00:05