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「言語の壁」をクラウド型人力翻訳でなくす

2016年05月25日 公開
2016年05月25日 更新

マシュー・ロメイン(Gengo CEO)

 

どこへ行ってもコミュニケーションがスムーズに取れる世界を

 

 ――もともと起業をしたいという考えはお持ちだったのですか?

ロメイン モノを作るのが好きで、いつか世の中の人が使えるモノやサービスを作りたいな、という気持ちはありました。

 Gengoを設立したきっかけは、ソニー時代の経験から「翻訳のニーズはどこにでもある」と思ったことが一つ。もう一つは、2000年代半ばに、グーグルがIPOをしたり(2004年)、フェイスブック(04年)やツイッター(06年)がサービスを始めたり、日本でもミクシィが上場したりして(06年)、ウェブ関連で面白いことが次々に起こっていたので、「自分もウェブで何かやってみたいな」と思ったことです。

 ――ソニーではオーディオのエンジニアだったんですよね。

ロメイン オーディオといっても、音声圧縮技術の開発などです。作曲とかではないですよ(笑)。

 ――ソニー退社後はウェブ制作会社をされていた。

ロメイン 一時期やっていました。いくつかのアイデアがあったので、いろいろ試していたんです。『Mii Station』という、任天堂さんのMii(アバター)用の似顔絵を写真から作るサービスを開発して、『ウォールストリートジャーナル』に掲載されたこともあります。

 ――いろいろと試された中でも、翻訳サービスが一番可能性を感じた?

ロメイン そうですね。言語の壁は以前から感じていましたし、翻訳のニーズが世界中にあることもわかりました。そうしたことを考えると、考えていた中で一番インパクトが大きいアイデアだと思いました。

 ――昨年までCEOを務められていた共同創業者のロバート・ラング氏とは、どのような役割分担をされてきたのですか?

ロメイン 彼は英国人で、奥さんが日本人ですから、やはり翻訳のニーズを強く感じていました。彼のバックグラウンドはデザイン系で、私は技術系なので、彼がデザインやマーケティング、企画を担当し、私が開発やシステムの設計を担当しました。

 ――創業以来、最も困難だったことはなんでしょうか?

ロメイン 資金調達でしょうか。日本にいるからこそ、言語の壁を感じてこの事業のアイデアが生まれたので、日本にいることに価値があると思っているのですが、当社を設立した当時の日本は今と違い、ベンチャーが資金調達をするのは非常に難しかった。そこで、サンフランシスコのベイエリア(シリコンバレー)に行ってエンジェル投資家たちと話をしたりしました。米国には、米国企業のアジア拠点を立ち上げたアジア人や南米から来て会社を立ち上げた人など、自身も言語の壁を感じた経験のあるエンジェル投資家が多いので、事業を理解してくれやすかったのです。最終的にはロンドンにあるアトミコというファンドのただ一人の日本人パートナーの方にリードしていただく形で、最初の資金調達ができました。アトミコは、スカイプの創業者が設立したファンドです。

 その次の資金調達はインテル・キャピタルの日本チームにリードしていただいて行ないました。

 その後、日本国内でも当社の認知度が高まり、昨年4月にはリクルートストラテジックパートナーズさんにリードしていただいて6.4億円の資金調達をすることができました(8月にさらに2社が加わって総額7.8億円に)。

 ――機械翻訳の研究開発が進んでいますが、今後、脅威になると思われますか?

ロメイン 機械翻訳の業界の中には「毎年、『あと5年』と50年間くらい言っている」という冗談があるのですが(笑)、とはいえ、機械翻訳の性能は、当然、上がってくるでしょう。しかし、それで人力翻訳が必要なくなるかと言えば、そんなことはないと思います。言葉は生き物ですから、人間でないとどうしても正確に翻訳できないところがあります。目的などに応じて使い分けることになるのではないでしょうか。

 ――文章の翻訳だけでなく、音声の通訳にも事業を広げることは考えていらっしゃいますか?

ロメイン せっかくバイリンガルの優秀な人たちを集めているので、将来的には通訳もできるのではないかということは考えています。まだローンチできるような段階ではありませんが。

 ――今後、10年、20年というスパンで考えたとき、御社の目指す姿はどのようなものでしょうか?

ロメイン 言語の壁を壊して、グローバルなコミュニケーションをスムーズにできる世界にしたいと思っています。どこの国に遊びやビジネスで行っても、その場ですぐコミュニケーションを取れる世界が作れたら嬉しいと思います。

 

外国語ができない人だけでなく、できる人にとっても魅力的なサービス

 取材を行なったのは東京・渋谷にある〔株〕Gengoのオフィス。シリコンバレーにあるGengo, Inc.の子会社ではあるが、実質的には東京のオフィスがヘッドクォーターとなっている。ロメイン氏も東京にいることが多いそうだ。とはいえ、一歩オフィスの中に足を踏み入れると、外国人の社員が行き交い、英語で会話が交わされていた。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まったことで世界の日本に対する関心が高まり、また、訪日外国人が増えているため、日本語と諸外国語との間の翻訳のニーズはますます高まっている。小規模な飲食店が、外国人観光客の宗教に配慮して、料理の原材料についての翻訳をGengoに依頼するケースも増えているという。法人にターゲティングしているとはいえ、個人でもGengoに翻訳を依頼することはでき、中にはラブレターの翻訳依頼もあるそうだ。

 世界中の人の力を使って言語の壁をなくす。非常に明快なビジョンであり、外国語ができない人にとってはとても魅力的なサービスだ。外国語ができる人にとっても、そのスキルを収入につなげられるという点で魅力があるだろう。さらなる普及が期待できる、今後の展開が楽しみな事業だ。

 

《写真撮影:まるやゆういち》

著者紹介

マシュー・ロメイン(マシュー・ロメイン)

〔株〕Gengo CEO

1979年、米国生まれ。父は米国人、母は日本人で、幼少時代から米国北東部、ロンドン、東京で日本語と英語を使い分けながら生活。ブラウン大学卒業後、スタンフォード大学にてMusic Science and Technologyの修士課程を修了。その後、オーディオ関連のエンジニアとしてソニー〔株〕に入社。退職後、受託業務をメインとするウェブ制作会社を立ち上げる。2008年にクラウド型の人力翻訳プラットフォームGengoをローンチ。09年に〔株〕Gengoを設立し、CTOを経て、15年にCEO就任。

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