2016年06月24日 公開
2023年05月16日 更新
現代人の多くがなんらかのアレルギーに悩まされている。花粉症やアトピーに加え、子供しかかからないと思っていた食物アレルギーに大人になってからかかってしまう……という例も。アレルギーを治す方法、改善する方法はあるのだろうか。そのメカニズムとともに、専門医に話をうかがった。《取材・構成=内埜さくら》
近年、日本人のアレルギー人口が増加しています。
この背景には、ここ五十~六十年ほどの間に起こった、生活環境の急激な変化が影響しています。衛生環境の改善、つまり清潔な暮らしがアレルギー増加の有力な原因と考えられているのです。
アレルギーは免疫の過剰反応によって起こります。体内に侵入してきた異物を身体の中から追い出す、つまり身体を守るための免疫システムが、本来身体に無害なものに対しても働いてしまうのです(下図参照)。
※人間には、体内に侵入してきた異物を追い出すための「免疫」という防御システムがある。この働きによって、病気の原因になるウィルスや細菌から守られている。しかし、「免疫」の働きが敏感すぎると、身体に無害なはずのものに対して、ウィルスと同じように退治しようと反応してしまうことがある。これを「アレルギー」という。
近年の研究によって、実は多くのアレルギー疾患が、皮膚からアレルゲンが侵入することが原因で引き起こされると判明しました。
アレルゲンが鼻から侵入して花粉症、口から消化器官に侵入して食物アレルギーを引き起こすといったメカニズムは大人も子供も同様ですが、そもそもアレルギー体質になるか否かは、乳幼児期の衛生環境で決まります。
乳幼児期に細菌やウィルスに接触する機会が多いと、ウィルスや細菌への攻撃を指示する司令塔的な存在、Th1(1型ヘルパーT細胞)と、アレルギーや自己免疫疾患に関与するTh17(炎症性の1型ヘルパーT細胞)がバランスよく増え、アレルゲンに反応してアレルギーを引き起こすTh2(2型ヘルパーT細胞)を抑制します。
逆に、細菌やウィルスに接する機会が少ない清潔な環境で生活すると、免疫力が育たないため、アレルギー体質になりやすいのです。
生後まもない赤ちゃんのリンパ節には、まだTh1とTh2のどちらにも変化していない、ナイーブT細胞しかありません。このナイーブな状態にアレルゲンが作用して、Th2が増えていくと、アレルギーを発症します。このTh2が「メモリーTh2」に変化してしまうと、細胞に記憶を残します。
メモリーTh2に変化していない段階の子供のアレルギーの場合は、治療によって治ることもありますが、成人の場合はメモリーTh2が完成してしまっているため、アレルギーを完治させるのは難しいのです。いったん発症してしまうと、上手につきあっていくしかないということです。
アレルゲンは皮膚から侵入しますから、どのアレルギーにも有効な対策が肌の保湿です。
ただし、タンパク質を含んでいないものを使うようにしましょう。 皮膚には消化酵素がないため、少量のタンパク質でも異物と認識し、アレルギーを発症する恐れがあります。
以前、『茶のしずく石鹸』を使った人が小麦アレルギーを起こしたことが大きな社会問題になりました。原因は石鹸に含まれる小麦の加水分解物です。「自然由来の製品であれば大丈夫」と考えるのは誤解です。一番の予防策は、タンパク質を含まない化粧水や乳液などの保湿剤を使うこと。市販されているほとんどの保湿剤は問題ありませんが、食品などのタンパク質が入っていないことに念のため注意しましょう。
更新:11月23日 00:05