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特別対談:藤本篤志(『社畜のススメ』著者)×薮隣一郎(『社畜人ヤブー』登場人物)

2016年02月29日 公開
2023年01月05日 更新

『THE21』編集部

部下を褒めるポイントは「住んでいる町」でもいい

 もう一つお伺いしたいことがあるのですが……、実は私はほめることがあまり得意ではないようなのです。ほめているつもりでも、部下が変な顔をしていることがあって、伝わっていないのではと思うことがありまして……。先生は、どんなほめ方をしたらいいと思われますか?

藤本 そこは悩んでいる上司の方が多いのか、講演などでもよく聞かれる質問です。まず前提として、叱らないといけないときは当然叱るべきですよね。ただそれと同時に、ある一定の期間――たとえば、1週間に1回とか、3日に1回とか決めて、定期的にほめてあげると良いと思います。

 3日に1回……ですか。部下をよく見ているつもりではあるのですが…、たとえば、どのように?

藤本 重要なのは、「定期的に」という部分です。ほめる部分はどんなことでもいいのです。ほめることにより、部下は上司からの「関心」を感じることが重要なのです。なぜなら、ピグマリオン効果と言って、関心を持ってあげると人は育ちやすくなるからです。

 ほめること自体に意味がある、ということでしょうか。

藤本 コピーが上手く取れた、でもいいし、机の上をきれいにしている、でもいい。もしも仕事で何もなかったら、仕事と関係ないことだっていいんです。「君の住んでる町ってすごくいい町だよね」とか。

 町ですか。それはまた……(笑)

藤本 「ほめるところがなくて」と言う人は多いのだけど、無理やりに探すくらいに相手に関心を持って観察することに意味があるのです。
そうそう、薮さんは倉良君のことを、「社畜の素養がある」と言っていたでしょう。あれもほめ言葉ですよね。

 おわかりいただけて嬉しく思います。おっしゃるとおりで、あれはほめ言葉でした!今思うと、彼はそう受け取ってくれたのかどうか……。

藤本 倉良君のようなタイプの人はたくさんいますよね。サラリーマンとしてある程度やりたいんだけど、社畜にまではなりたくないと。多分ここを乗り切れば非常にいいサラリーマンになると思いますよ。
倉良君は、薮さんの下で働いているということで、上司に恵まれていますね。その会社の中で仕事を積み上げるための方法、出世した人はみな一度はこのやり方を通っている、というノウハウがあるはずなのですが、それをきちんと教えてくれる人は少ないんですよ。
一番多い上司は「俺はこうやってきた」と教える人なんですが、それはその人のやり方であって、つまり守破離でいうと「破」の応用の部分を言っているような感じで、役に立ちません。

私はノウハウを「汎用的なノウハウ」と「特殊なノウハウ」というふうに使い分けているんですけどね。「俺はこうやってきた」は、特殊なノウハウであって、汎用的なノウハウを忠実に覚え込む、ということを概念的に言ったのが「歯車」なんですよ。

 そのお言葉、倉良君に伝えます。

 

「360度評価」が日本企業に向かない理由

 ところで最近、上司が「360度評価」について得意先様から聞いたらしく、「ウチでも導入したらどうか」と申しておりまして。私としては、弊社には馴染まないのではないかと慎重になっております。弊社にはなかなか個性的な上司も多いもので……。

藤本 360度評価は、バブル崩壊後、自信を失った日本社会が舶来物として輸入したシステムなのですが、いまでもやっている会社はあるようですね。そのお得意先がどうなのかはわかりませんが、私の印象ではうまく運用できている会社は少ないと思います。

欧米はもともと、ディベートっていう議論を是とするところでの文化なので、360度評価をしても別にそれが禍根には残らないし、下が上を蔑むということはないのです。彼らは是々非々で判断しますからね。

しかし、日本の場合は文化が違うので、そううまくはいきません。実際に、評価点を上げるために上司が部下に敬語を使ったり媚びたり、といったことまで出てきてしまう。教える側の権限とか権威なんて、完全に崩壊してしまいますよね。

だいたい、360度評価の原書を読んだことがあるのですが、「但し、使い方にはくれぐれもご注意を!」と書いているぐらいですからね(笑)。

 欧米式をまるまる取り入れてしまっては、混乱する部分も出てくるでしょうね。ありがとうございます、私の方でも更に調査をし、上司にレポートを提出しようと思います。

藤本 薮さんのような、まっとうな「社畜道」を勧める人が、1社に1人欲しいくらいですね。
私、この本を出版したあとでハッと気づいたことがありまして。
何かというと、「社畜を乗り切れば、本当の意味での『社蓄』になる」畜ではなくて蓄、つまり会社の財産、会社にとってなくてはならない人間になれるのだ、と。そうは思いませんか。

 素晴らしい……!「社畜から社蓄に」、名言ですね。私もより一層「社畜道」を極め、「社蓄」を目指します。今後の先生のご活躍を楽しみにしております。今日は貴重なお時間を頂きありがとうございました。

藤本 こちらこそ、ありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。

著者紹介

藤本篤志(ふじもと・あつし)

グランド・デザインズ代表取締役

1961年大阪生まれ。大阪市立大学法学部卒。株式会社USEN取締役、株式会社スタッフサービス・ホールディングス取締役を歴任。2005年7月より現職。営業現役時代に営業プレーヤーとしても、営業マネジャーとしてもトップの成績を収めた経験を活かして、営業コンサルティング事業を始める。2013年4月、長年のコンサルティングで培ったノウハウを活かした画期的な営業プロセスマネジメント・クラウドシステム「営業ミエルマップ」を完成させ、販売を開始する。『御社の営業がダメな理由』『社畜のススメ』(新潮新書)をはじめ多数のビジネス書を執筆する。

薮隣一郎(やぶ・りんいちろう)

株式会社アド・ブラックス 営業部二課課長

スタイリッシュでクールな社畜。残業は「会社へのおもてなし」、クレームは「お客様からのラブコール」など独特の社畜思考を極める一方、仕事の実績と速さでは常に周囲を圧倒する。

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