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特別対談:藤本篤志(『社畜のススメ』著者)×薮隣一郎(『社畜人ヤブー』登場人物)

2016年02月29日 公開
2023年01月05日 更新

『THE21』編集部

仕事の「守破離」とは何か?

 ところで、知り合いに、何度も転職を繰り返している男がいまして。どこに行っても不満があるようです。私から見ると、先生が本に書かれている「守破離」の「守」の段階で次の場所を求めて失敗しているような気がしています。

藤本 「守破離」についても、薮さんはうまく部下育成に取り入れてくれていましたね。「守破離」の「守」とは、基本に忠実に、教えられたとおりの「型」を徹底的に習得すること。「破」とは、「守」で身につけた基本に、自分なりの応用を付け加えていく段階。その次に、独自の境地である「離」に至る。
野球だったら、まずは球拾いや素振りをしますよね。柔道ならば受け身から習う。その型を覚えるまでは次の段階には行けないはずです。仕事も同じで下積みから始まって当たり前なのですが、そういう方はその当たり前のところが我慢できず、他の「自分の個性、つまり〝自分らしさ〟を発揮できる場所」とやらを求めて転職してしまうんですよね。


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「個性」を発揮していいのは12年目以降

 残念なことです。ところで、藤本先生は「守破離」のそれぞれの期間の目安を12年と書かれていましたね。

藤本 そうです。22歳で社会人になって60歳で退職とすると、ちょうど38年間ありますよね。3で割れるちょうどキリのいい数字は36年で、2年余りますが、守12年、破12年、離12年としました。

 すると、12年目くらいが「キャリアの次の段階」を考える節目と言えるわけでしょうか。

藤本 そのとおりです。部下を持ってマネジャーとして成長していきたいのか、もしくは専門の道を極めるのか。あるいは、転職を考える時期でもあるでしょう。そこまでちゃんと守として完璧に基礎を。そのときには自分を高く売ることもできますよね。
私はコンサルタントとして独立する前、人材会社で働いたこともあるのですが、10年間ひとつの会社でやってきた人となると、雰囲気からして下積みをちゃんとやり遂げた人だと見えるんですよ。だからすごく「高く売れる」わけです。

 なるほど……非常に勉強になります。(光の速さでメモを取りながらうなずく)
先ほど先生は、「歯車になりたくない、自分の個性を出したい」という人が多い、とお話しされましたが、守破離の「守」もままならないうちから「自分の個性を大切にしたい」と言う人が多いように感じます。

藤本 よく聞く話ですね。「自分の個性を大切にしたい」と考える人が多いのですが、それは、「自分の個性」が〝いつもグッド〟ということを前提にした考え方なんですね。しかし、現実的には、〝ほとんどバッド〟という人が多いんです(笑)。特に、仕事においては。
たとえば、営業職で全く売れない動きしかできない人がいるとしますよね。その「売れない動き」も、個性と言えば個性なんですよ。そういう人が、「個性を大切に」と言っても、売れない動きをもっと磨けということになってしまう(笑)。
もっと言うと、ネクラな人は、その「ネクラさ」が個性なんですが、本当に「ネクラさ」を大切にすべきでしょうか?(笑)

ですから、ここもやはり、薮さんがおっしゃるように「守破離」の考え方に照らし合わせるべきなのです。「個性を大切に」というのは、「破」のレベルになった人に言う言葉なんですよ。つまり、個性の前に、基礎工事を確実にマスターすべきなのです。

雨が降っても地震がきても絶対にぐらつかないぐらいの実力を。楽器で言うと、どんな楽譜がきても、1音も間違えずに弾けるまでの基礎ができました、と。その段階に入って初めて、「個性」を出すことが許されるのだと思います。

会社の基礎仕事を安心して任せられる人にこそ、会社は思う存分個性を発揮してもらいたい、と考えるのが自然の道理というものです。

 なるほど……、同感です。「個性が大事」が口癖の部下には、是非この話を引用させていただこうと思います。

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著者紹介

藤本篤志(ふじもと・あつし)

グランド・デザインズ代表取締役

1961年大阪生まれ。大阪市立大学法学部卒。株式会社USEN取締役、株式会社スタッフサービス・ホールディングス取締役を歴任。2005年7月より現職。営業現役時代に営業プレーヤーとしても、営業マネジャーとしてもトップの成績を収めた経験を活かして、営業コンサルティング事業を始める。2013年4月、長年のコンサルティングで培ったノウハウを活かした画期的な営業プロセスマネジメント・クラウドシステム「営業ミエルマップ」を完成させ、販売を開始する。『御社の営業がダメな理由』『社畜のススメ』(新潮新書)をはじめ多数のビジネス書を執筆する。

薮隣一郎(やぶ・りんいちろう)

株式会社アド・ブラックス 営業部二課課長

スタイリッシュでクールな社畜。残業は「会社へのおもてなし」、クレームは「お客様からのラブコール」など独特の社畜思考を極める一方、仕事の実績と速さでは常に周囲を圧倒する。

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